頭が痛い。
だるい。
喉が痛い。


昨日から背中の辺りがピリピリして変だとは思っていたが、
俺はどこからか悪い風邪を貰って来てしまったらしい。












さっさと












「もう…いいから行け」

「でもよぉ…」

「2人で休んだら支障が出るだろ」


起きた途端に戻して、熱を計ってみたら8度5分。
体温計を見て「ギャア!」と悲鳴を上げたサイファーにベッドに押し込められて何年前のか解らないような風邪薬を飲まされて。

そして俺は今、心配してくれるのは有り難いが過保護過ぎる男と戦っていた。


「…やっぱ俺も休む」

「…行けったら行け。仕事しろ」

「でも」

『こんなお前を置いて行くのもなあ…』


聞こえないように言ったのだろうが聞こえてしまったその台詞に、
俺は息苦しさから自然と寄ってしまう眉間の皺を余計に深くした。



やっぱり、サイファーはまだ俺がトラウマ持ちだと思っている。





確かに俺は、置いて行かれるのがトラウマだった。
否定はしないし、出来ない。

レインごと、ラグナに置いて行かれて。
俺を産んだレインには置いて逝かれて、
孤児院ではエルオーネに置いて行かれて、
あの戦争の時にはサイファーに置いて行かれて、
戦争が終わったと思ったらリノアに置いて行かれて…
まあ、アレは置いて行かれたというか、単に振られただけと言うか…。

置いて行かれっぱなしの人生だと我ながら思う。


特にエルオーネに置いて行かれた石の家時代の置いて行かれ経験は、
我ながらかなり根強くトラウマになっていた。

そのお陰で友人もいないような根暗い性格が形成されたと言っても過言ではないし、
人間不信のきらいだって、間違いなくあった。
何にも期待しないつまらない生き方だったとも思う。

けれど、あの戦争の最中にエルオーネとは再会出来たし、
ラグナにだって偶然とはいえ会えた、
結局、サイファーも帰って来た。


だが、すったもんだの末に今や恋人になったサイファーは、
告白された時に俺が皮肉を込めて「俺を置いて行ったくせに」と言ったせいか、
その部分だけ腫れ物に触るような扱いをする。

実際はそんなに気にすることなんか何一つありはしないし、皮肉を言ったことはきちんと謝った。
だが、サイファーは俺が未だに「置いて行かれる」事に何らかの恐怖心を抱いていると思いこんでいるのだ。
それが妙に悔しい。


あの戦争からもうかなりの月日が経った。
一応恋人だって出来たし、友人だっているし、今の仕事だって自信を持ってやっているし、楽しい。

今なら、どんなに置いて行かれたって生きていれば会えるし、置いて行かれたら追いかければいいのだということも解る。

俺だって成長しない訳ではないのだ。


だから俺をまだトラウマ持ちだと思っているサイファーにもう気にするな、と言う代わりに
出掛けるサイファーに向かって"さっさと行ってしまえ"と言うようにした。

初めて言った時にはかなり驚かれた覚えがある。
ただ単に機嫌が悪かったと思われたらしいが、何度も何度も言っているうちに普通の返答をするようになった。
慣れたらしい。あるいは、また皮肉だと思っているのかもしれない。


それでも少しくらいは解ってくれたかと思っていたが、
今朝の様子を見る限りはそうでもないようで、

…腹が立つ。






「…んじゃあ、行ってくるけど」

「ああ」


朝飯を適当に食べて、コートを着込んだらしいサイファーが俺の部屋に顔を出す。
俺は頭のてっぺんまで布団を被ってその声を聞き、短く答えを返した。
寒いのだ。ついでに言えば喋ると喉が痛い。


「昼には一回、帰って来るからよ」

「ああ」


一応、返事はしているが、いい加減イライラして来た。

サイファーの存在感は、うるさい。
側にいるだけで疲れる時があるのに、病み付いた身体では正直会話をするのもキツイ。
さっさと部屋から出て行ってくれ…と思っていると、
戸口から漸くサイファーの気配が消えた。
これでやっと静かになる……安眠できる……


「おい」


…と思ったらすぐうるさい気配は戻って来た。
布団の中で溜息が漏れる。吐いた溜息が異様に熱くなっていて、熱がまた上がったらしいことを自覚する。
サイファーはそのまま俺の枕元にまでやって来てサイドテーブルに何か置いた。


「水、ここに置いとくぜ」

「ああ」


冷たい水のことを考えるだけで背筋にぞくぞくと悪寒が走る。
朝飲んだ薬の効果がどうも薄いようだ。もうこれは本格的に寝て治すしかない。
目を閉じているだけで、ふっと眠れそうな気がするのに、
側にあるうるさい気配が眠ることを許してくれない。


「えーと…」


もう言う事もする事もないのだろうが、サイファーはそれでもまだ行くのを渋っているらしい。
もう、いい加減、俺だって寝たい。
だるい。頭が痛い。とっとと寝て治したい。


「………サイファー」


布団から顔を出して、呼び掛けると思った以上に酷い声が出た。
自分でもびっくりする程の弱々しい呼び掛けに、呼ばれた本人はドアの所からすごいスピードで戻って来る。
それから妙に心配そうな、嬉しそうな表情で俺の顔を覗き込んで来た。
…いや、明らかにニヤついている。

きっと、この男は俺が「やっぱり行かないで」とかそんなことを言うとか思っているに違いない。
誰がそんな事を言うものか。

ガバッと掛布をはね除けるや否や、まんまと寄って来たサイファーの腕を掴んで、
さして広くもない部屋をズカズカと大股で歩く。
俺に腕を引かれて、サイファーもよろけてついて来ながら「寝てろ!」だの「何だ!?」だの言っているが、もう無視だ。
大股13歩で丁度玄関。

電子ロックを解除して、外への口を開けたそのドアの前にサイファーを引きずり出す。

大きく息を吸って、よろけないように側の壁に手をついて、左足を振り上げ、


「さっさと行っちまえ!!」


怒鳴りつけながら相変わらずの白コートのケツの部分を思いっきり蹴ってやった。

すぐさま手元のボタンを押して俺の怒声が反響する廊下と、蹴り出されて無様に転ぶその後ろ姿を視界から消してやる。
勿論、ロックを掛けることも忘れない。



ああ…
スッキリした。



怒鳴った喉はヒリヒリして、きっと明日もっと酷い声になっているだろうが、もうどうだっていい。
スッキリしたからもういい。
俺をいつまでも子供扱いするサイファーが全て悪いのだ。


ドンドンとサイファーがドアを叩く音を気持ちよく無視して、
俺はさっさと寝床へ向かった。






























俺の言う「さっさと行ってしまえ」の裏に「さっさと帰って来い」の意味があることは、
まだまだ言うまい。




































2005.02.04

いやあ…リハビリに書いてみました。
久々です…すみません!

この題材、本当はもっとシリアスになる予定だったのですが、
手の赴くままに打っていたらこんなものに…あああ(震)
何か予定よりも長くなりましたし…あああ(震)

何はともあれリバビリサイスコ。

過保護なサイファーにキレるスコールでしたとさ(爆)
強い子スコール強化月間…(笑)





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