"桜色の季節"







暖かい風吹く、小春日和の頃。



「ソレ焼いてる間、出掛けようぜ」


何となく作りたくて作り出したパウンドケーキのタネを
型に詰めてならしている所に、サイファーが乱入してきた。

言われて窓の外を見てみると、
まぶしいくらいの青空に飛行機雲。


ケーキが焼き上がるまで60〜70分。


そういえば引っ越してきたばかりでロクに散歩にも出ていない、

そこら辺をブラブラするぐらいなら、と
パウンド型をオーブンに突っ込んで家を出た。









暖かい日ざしの昼下がり。
狭い道を前後に別れて歩く。

ふと思い立って、前を歩くサイファーの手を取ってみる。
固い手のひらの感触と体温を感じた途端、頭に血が上った。


うわ、俺恥ずかしいことしてる。


少し照れて手を放そうとしたが、
その前にぎゅうっと握り返されてしまった。
サイファーの耳が心なしか赤くなっているのを見たら、
笑えてきた。


負けじと握られた手を握り返す。


そこで、路地が終わった。











路地裏を抜けて、開けた視界に一面の桜。


「うわ」

「お、すげぇな」

「…知ってたのか?」

「いんや」


探索ついでに花見して行こうぜ、
と手を引かれるまま一番巨大な桜の木に歩み寄る。
ひらひら絶え間なく舞い落ちる花びらのせいで視界がピンクだ。


「…一面ピンク色だな」

「馬鹿、ロマンがねえな。『桜色』って言うんだよ」

「ふぅん」


手を繋いだままで地面に寝っ転がるサイファーにつられて、
俺も草の上に倒れ込む。


いつまで繋いでるつもりなんだろうか。
…別にいいけど。


寝転がって空を見上げる。
ピンクと水色のコントラストが綺麗だ。



ふと、幸せだなぁ、と思った。

こうして手を繋いで散歩したり、桜を見たり。
こんな小さなことで幸せを感じることができる。
それは俺が少しばかりは成長したからなんだろうな。

そう考えると、今までもったいないことをしてきたのかもしれない。




枝先が重そうに見えるほどたわわに咲いた桜が綺麗だ。
もこもこしていて美味そうだ…とか言ったら笑われるだろうか。


「あれ、触ったらどんな感触なんだろうなぁ」

「知らね」


ひんやりと冷たい地面に背中を預けて
舞い降りてくる花びらを全身に浴びる。
顔に落ちてくる花びらはやっぱり植物なだけあって
少し湿っていて気持ちがいい。

時間を忘れてぼんやりしている間にひらひらひらひら。
服の皺やフードにどんどん積もる。

後で払うのが大変そうだ。




それにしてもやっぱりあの薄らピンク…
いや、『桜色』なもこもこはわたあめみたいで美味そうだ。

美味そう…。


ん?美味そう?


「サイファー!ケーキ!!」

「あー?あー!!!!」


手を繋いだまんま猛ダッシュで家に帰るも後の祭り。


結局作り直しになったケーキの中に、
この間テレビでやっていたパンの真似をして
二人して服にくっつけてお持ち帰りしてきた
桜の花びらを塩漬けにしてのせてみた。

何とも微妙な風味になったりしたがそれもまた味。




まあ、こんなのんびりした日もいい。






春は、桜色の季節だ。













































2004.04.28

自分的にあまりにカユイものを書いてしまいました!
アヒハー!うぶぶ万歳!
珍しくお料理スコールでした。そう言えば。

あと、これ某曲がモチーフです。ずっと聴いてたら書きたくなっ…
あのう。すごくよく解ってしまうと思われます。
すみませっ……!!

同じようなシチュエーションを含ませつつも、
あまりに正反対な感じになったので昔の述べるとまるきり同じ
ページ構成にしてみました。あの暗いののリベンジ?
センタリングって読みづらいですよね…お客さんすみません!

なにはともあれ、こうして若者は爺になっていくのですよ。





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