リプレイ 「スコール」 聞き慣れた恋人の低い声に振り返った。 今はもう逢うことすら許されない恋人。 抱き締めようと駆け寄ると 激しい痛みと鈍い衝撃を感じて。 ごとり、と俺の左腕が地面に落ちる。 …嘘だ。 あんた、何で俺に剣なんか向けて。 ああ、白いコートに血が付いてる。 俺の、血。 嘘だ。 あんた、俺を殺すのか? そう声に出して訊くと、 サイファーはいつもの笑いをして 膝をついた俺にガンブレードを振り上げた。 違う。 あんたが俺を殺すはず、ない。 そうして 伝わって来たのはサイファーのガンブレードが俺を貫く感覚ではなく。 残った右腕に鈍く。 酷く覚えのある振動。 皮膚を通り、筋を通り、骨を通り、 心臓も通って、 背中まで。 肉を貫く── 俺の手には、いつの間にかガンブレードが握られていて。 嘘だ。 俺が、殺した? サイファーの胸から溢れた血がガンブレードを伝って、 革手袋に染みる。 「…ッ」 刃と皮膚の接点から サイファーが 溶けて 透けて 不定形になって どろどろと地面に流れて 染みて。 待ってくれ。 殺したかったんじゃないんだ。 行かないでくれ。 待ってくれ。 ──暗転した。 待ってくれ、もう一度。 やり直し。 やり直したい。 もう一度。 「スコール」 聞き慣れた恋人の低い声に振り返った。 今はもう逢うことすら許されない恋人。 抱き締めようと駆け寄って、 その背に手を回した。 自分の背にもサイファーの腕を感じる。 久し振りの感触にうっとりと眼を閉じ 「スコール、…悪ぃな」 「え?」 背中に、衝撃を感じた。 肩胛骨を突き抜けて、肺まで。 冷たい刃物の感触。 喉の奥から血の味と熱いものがぐっと迫り上げ どぼり、と溢れる。 …嘘だ。 また… あんた、また俺を殺すのか? 声に出して訊くと 俺を抱き締めたままのサイファーが 喉の奥で低く笑って もう一本ナイフを取り出した。 次は心臓。 ああ、俺、死ぬのか? あんたに、殺されるのか…。 そうして 伝わってきたのは心臓をナイフで抉られる感覚ではなく。 サイファーの背中に回した両腕から。 また、あの覚えのある鈍い感触。 皮膚を通り、筋を通り、骨を通り、 心臓も通って、 密着している俺の皮膚まで。 命あるものを貫くあの── 俺は両手でしっかりとナイフを握っていて。 嘘だ。 殺した…? 俺が…また? 既に命の抜けたサイファーの重い身体がのし掛かり 俺を伴って地面に倒れ込んだ。 「サイファー…」 ひたすら重いだけの抜け殻を抱き締めると ぐぐ、と俺の刺したナイフが動いて ワインの栓のように勢いよく飛んだ。 背中に空いた穴から 風船のように 何かが漏れ出て 重かった身体が どんどん軽くなって 抱き締めていた身体が 消えて。 待ってくれ。 殺す気なんかなかった。 消えないでくれ。 サイファー、あんた何で 死ぬんだ。 ……ああ、俺が殺すからか。 ──暗転した。 待ってくれ。 もう一度、もう一度。 今度こそ。 今のは失敗だった。 やり直したい。 今度こそ。 「スコール」 聞き慣れた恋人の低い声に暗闇の中振り返った。 今はもう逢うことすら許されない恋人。 抱き締めたくて駆け寄ろうとし、 サイファーがガンブレードを向けているのに気づく。 俺もガンブレードを持っていたけれど、 足元に捨てた。 あんたが死ぬのは 俺が殺すからだ。 俺が殺さなければ あんたは死なない。 死なないんだ。 「…だろ?」 ガン、と刃が床に跳ねる音をあんたは驚いた表情で聞いて。 俺の顔を見て。 …なんだ、その変な表情。 「スコール、…悪いな」 目の前にあんたの顔が迫って ──暗転した。 …どうなったんだ? 今のは。 サイファーは死ななかったんだよな。 じゃあ、いいのか。 ならもう一度。 もう一度やり直して… ………。 どうしたんだ? やり直したい。 もう一度。 もう一度だ。 もう一度。 …………。 やり直したいんだ。 今度こそ上手く行く。 もう一度。 …ああ、 もう 終わり? 2002.06.23 …ぎにゃあぁ。 すいませんすいませんなものをまた書いてしまいました。 コレ、実は私の見た8夢が元ネタになっております。 けっこうまんまこの内容でした。 我ながら…不気味…自分。 ええと、いっつもこんなこと考えてるわけじゃないんですよ。 ないですよ!!(半泣) たまにはもっとラブラブしてるものを書きたい私でした。 |