専用まくら








休日の午後3時。


ぐったりとソファに沈みながら資料に目を通す俺に
どすどすと不機嫌そうに近づいてくる足音がある。
続いてどっかとソファの隣が沈んだ。
不機嫌な人間特有の荒っぽい動作による振動で膝の上の資料に乗せておいたカップが落ちかける。
危うくこぼれかけたコーヒーを慌てて安定した床の上に置き、身体を起こした。

当たり前と言うか何というか、そもそもこの部屋に入れる人間は限られている。
眉間にしわを寄せ、険しい表情で俺の隣に座っているのは、
たった30分前に喧嘩して怒りもあらわに自室に閉じこもったサイファーだ。

やっぱり喧嘩しててもすることはするんだな…と思いつつも
喧嘩の原因…ガーデンの経営資料に目を走らせていると、


「昼寝」


まだ不機嫌を滲ませる声がぶつかって来た。
はいはい、と足の上を占拠していた資料や書類をソファの空いたスペースに移していると、
右腿の上に男の頭がどかんと落ちて来る。

それでもいつものように仰向けでなく俺に背を向けるように腕を組んで向こうを向いているのは、
まだ相当この男のご機嫌が斜めであることを示している。

果たして、このままにしておいていいものか否か。
まだ仕事がたんまり残っている立場からすればご機嫌を取ってやるのは面倒臭い。
しかし、何もせずに余計へそを曲げられたらそれも面倒臭いことになる。

…なるべく、後者は避けたい。


「…サイファー」


声をかけてみるが、返答はなかった。


「すねるなよ」


試しにぽんぽんと頭を叩いてみると、


「うっせー。枕は黙ってろ」


邪険に振り払われてしまった。
が、
どうやら照れているらしい。

目線のすぐ先にある頬とか耳がちょっと赤くなっているのを見て、
むっつりとした空気を漂わせながらそっぽを向いている横顔を
ついつい可愛い、とか思ってしまった。


「何ニヤニヤしてんだ枕。気持ち悪ぃ」

「いや…別に」


悪態を流しつつ、ますます頬が緩んでしまうのを止められない。

いつも俺に可愛いと言うこの男の神経を疑わしく思っていたが、
それも返上しなくちゃな、と思う。

でも、
こんなデカくてタチの悪い男を『可愛い』とか思ってしまうなんて
俺も相当終わってるな。



ああ、もう今は口を開いたらすごい好きだとか馬鹿なことを言いそうだ。
多少面倒臭くてもいい。後でご機嫌を取ろう。




おやすみ、サイファーちゃん。




そんなけったいなセリフを飲み込んで、
ついでに吹き出しそうになるのを我慢して、


さっさと仕事を終わらせるべく書類に目を戻した。











2004.07.02


吉井様主催のイベント、「のほほん」に出品させて頂いた述べるでございました…。
のほほん?コレはのほほん?と自問自答しながら書きました(爆)
イラストから派生…。

出品にあたり「private pillow」とか英語のタイトルついていましたが
耐えきれずに日本語に。うおおお英語め!(憎)

昼寝サイハーさん専用膝枕。
夜はスコール専用腕枕なんで。(すみませんごめんなさい)






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