「あ」


蒸し暑い中ソファでごろごろしながらふと目にした時計の針は、11時50分 を少し過ぎたところを指していた。



















想う























そういえば、今日はあいつの誕生日だったか。



すっかり忘れてた。……ってーか、思い出さねえようにしてた、つうのが本当 のとこで。
第一、別れた今誕生日もクソもねえだろうし。
あいつには今はちゃんとした女も、仲間もいるんだから俺があいつの誕生日 にどうこうするいわれもねえ。

あんな変な別れ方しちまったし。
俺はもうガーデンに戻る気もなきゃあいつに会う気もねえし。 つうか、会えねえ。
世界敵に回してバカなことやったとか、つうかそれが理由で今追われてるとか、 あいつと敵対したからとか、あいつに負けたからとか。
あいつに女が出来たとか。こんな俺あいつに会う資格あるのかよ、とか。 そんなご大層な理由じゃなく、何となく、気まずいから。


……もう会わねえ。






それでもあいつの誕生日だけは、あいつのことを想う。








「好きな人が誕生日なのに祝えないの?」

「じゃあ、想えばいいじゃない」



いつだったか酒場で一緒になった名前も知らねえ女が言ってたことに影響を受 けてるとは考えたくねえけど。



誕生日だけは、あいつのことを、想う。



当たり前のようにあいつの側にいられた頃よりも強く。
あいつと剣を交え本気で殺気をぶつけ合った時よりも熱く。


あいつの無表情な顔とか、
俺との身長差とか、
低めの落ち着いた声だとか、
歩くたびにふわふわする猫っ毛とか、
あいつが少し前を歩くと見えるほっそい首とか、
ガンブレードを持つ指先だとか、
抱きしめたときの薄い体の感触とか、
唯一感情を素直に現すその眼とか、
滅多に見せてくれねえ笑った顔とか。
それこそ思い出せるモンはすべて思い出して。



あいつを想う。



未練がましいとはてめえでも思うけど、
一年に一度だから勘弁しろ。


会いに行かねえ、
手紙も書かねえ、
電話もしねえ、
メールも打たねえ。



その代わり、想わせろ。
それぐらいなら、罪にはならねえだろ?







秒針が12に重なる瞬間に、1年分の想いと、
……もう来ることはねえ未来への諦めをこめて。








お前のことを、想う。











想う。





















想う─────。







































「愛してるぜスコール。……誕生日おめでとう」























































2001.08.24 00:18

初めて書いたサイスコ小説。
バイト先で散々考えて、帰ってから速攻で書きました。
最初にサイハーさんが見た時刻はワタシがパソコンをつけた時刻となっております。
勢いでモノを書くもんじゃないと教える代表作。





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