久々に取れた休日。

デートと銘打って買い出しに出掛けた。

バラムまでダラダラ歩いて、とりあえずガンブレードをジャンクショップに預ける。
それから生活必需品の買い出し。
トイレットペーパーやら洗剤やら生ものやら調味料やらをさくさくと買い込んで、
適当にその辺でお茶して、じゃー帰っかと腰を上げた。

ジャンクショップにガンブレードを受け取りに行く道すがら、
ガンブレ受け取ってアレ買ってコレ買ってと諳んじているスコールをやや後ろから眺めていると
突如血相変えて「にゃー!」と奇声を上げながら路地に突っ込んで行ったもんだから、
コイツ仕事のしすぎで脳味噌逝っちまったんだな…と可哀想な気分になった。








猫日和








そのままにしておくもの何だから追いかけると、スコールはレストランの裏口らしき路地裏に突っ立っていた。
肩越しに路地を覗き込む。
そこに広がる光景。

薄暗い路地の中、ゴミ箱の辺りの日だまりにごろごろ寝転がっている猫、猫、猫。
白猫黒猫ブチトラ三毛シャムもどき長毛短毛よりどりみどり何でもござれ。

コレは動物好きなコイツには天国だよなあと思いつつ路地に踏み込むと、


「こっち来るな」


と凄まれた。


「あんでだよ」

「あんた怖いから、猫が逃げるだろ」


仮にも恋人に酷い言いようだ。

きっぱりと酷いことを言い放ってじっと目線を猫の群れに向けたまま、
そろりそろりとゆっくり猫だまりに近づいて行く。
さすがに伝説の何とやらなだけあって、足音一つ立てないし無駄な気配も殺している。
だが、じりじりと近づいてくる多分必死の形相の男に猫たちの方は明らかに警戒しているのが見て取れた。
さっきまでのリラックスした態度はどこへやら、今や頭を上げて耳をピンと立て、立ち上がってはいないものの後ろ足に力が入っている。
あとちょっとでも刺激しようものならそれこそ蜘蛛の子を散らすように逃げていくだろう。

それはそれで別に問題はないが、逃げられた時のスコールのしょんぼりした顔を想像したら何だかそれも可哀想になった。


「おい、ちょっと待て」

「何だ」

「そんな風に近づくな。猫が逃げんぞ」


そう言ってやると、両手を上げかけた妙なポーズのままスコールはえ、と顔だけこっちを振り向いた。
ちょいちょい手招きしながら路地に足を踏み入れると、疑わしそうな視線を向けながら尚も妙なポーズのままそろりそろりと後ろ歩きで路地の入り口まで戻ってくる。
いつもならこっちの言うことなんて軽く無視する筈がイヤに素直だ。
それだけ猫に逃げられたくないらしい。


「いいか、まず猫と仲良くなりたい時は睨むな、威圧するな、必死になるな」


路地の壁際に買い込んだ荷物を置きながら、ちょっとめんどくさく思いつつそうアドバイスする。
スコールはまだ胡散臭そうな目でこっちを伺いつつ、それでも無言で頷いた。


「そんでもって、とりあえず相手の目線と同じになれ。ホレ、しゃがむ」

「ああ」


言いながら薄暗い路地にしゃがんでシャツの裾を引くと、スコールもすとんとその場にしゃがみ込んだ。
ハタから見れば暗がりに向かって路地にしゃがみ込む男2人。
ちょっとお近づきにはなりたくない感じだ。


「話しかける時は相手の解る言葉で話しかけろ。さっきみたいのが正解だ」

「にゃー?」

「おう、それそれ」


頷くと、スコールは猫だまりを真剣に見つめながらにゃーにゃー言い出した。
真剣な無表情で割と無感情に「にゃーにゃー」言うスコールの姿はかなりヤバイ。
しかも鳴き真似じゃなくて地声だ。ちょっと怖い。
思わず吹き出しそうになったがすんでのところで堪える。
ここで笑おうもんならきっとへそを曲げまくって口をきいてくれなくなるだろう。


「重要なのは相手が近づいてくるまでこっちから近づかないことだ。こっちから近づくと逃げてくからな。我慢だ」

「わかった。我慢する」

「なかなか寄ってこなくても焦んな。気長にやるのが肝心だ」


笑いの発作を咳払いで誤魔化して、アドバイスを続ける。
スコールは尚もにゃあにゃあ言いながらコクコクと頷いた。
しばらくそのまま面白おかしい低音にゃーにゃーを聞いていると、
敵意がないのは解ったのか、そのうちの何匹かが立ち上がりのそのそとこっちに歩いて来た。
黒と白のオーソドックスな柄の長毛が、手の届きそうな場所でスコールを見上げて一声にゃあと鳴く。


「寄ってきた」

「寄ってきてもいきなり触ろうとすんなよ、とりあえず様子を見る」


ぱっと顔を上げてこっちを見るスコールを制して、足下に来た全身茶トラに目をやる。
目が合うとぎゃーと鳴き声を上げたので、とりあえず同じようにぎゃーと返すと隣でスコールが吹き出したのが聞こえた。
失礼なヤツだ。低音にゃーよりは遥かにマシだ。

しばらくそのまま鳴き交わしていると、回りをウロウロしていた猫がすりすりと頭を至る所に擦りつけて来た。


「もう触ってもいいんじゃねーか?…あ、ただしいきなり頭とか腹とか触ろうとすると引っ掻かれるから気をつけろよ」


これはどうすれば…と目で聞いてくるスコールに言いながら、手本代わりに手元にいた猫の肩から背中あたりを何度も撫でてやる。
数回撫でると早速ゴロゴロ言う振動が手に伝わってきた。
それを見て、スコールも同じように一番最初に寄ってきた長毛で白黒なヤツの肩あたりをそっと撫でる。
んなーと鳴きながら手に体を擦りつけてくるそいつに安心したのか、段々とあちこち撫でくり回し始めた。


「引っ掻かれても怒んなよ」

「……ゴロゴロ言ってる」


喉を指先で撫でながら嬉しそうにスコールが呟く。
その顔はもう「うわーもう死んでもいい」とか思っていそうだ。
多分もうこれは何を言っても猫に集中してるから聞いていないだろう。
至福の毛玉触り放題タイム開始だ。
それよりいい加減しゃがんでる時間が長すぎて足が痺れてきた。

大股開いてしゃがんだ足の間に入り込んで太ももにぐりぐり頭を押しつけて来るヤツを適当にじゃらしながら同時に尻の方をウロウロしてるヤツの脇腹をごしごしと撫でてやる。
もはや結構な数の猫に囲まれている。
薄暗い路地に座り込んで、猫に囲まれている男2人。
これはどうなんだろうか。

スコールの方も数匹まとわりつかせてシャツやら背中やらにぐりぐりされてお気に入りの黒いシャツが毛だらけだが、
今は目の前にいる一匹にしか集中できないようだ。
前足をつんつんつつかれたからか、その手を追って長毛白黒は腹をみせてどっすんと転がった。
その勢いにうわ、と声を上げているスコールがおかしい。


「そこまで来たらもう煮るなり焼くなりお好きにどーぞ、ってヤツだ」


スコールに白い腹を撫でられてうっとりしている黒猫を見ながら、
股の間に座り込んでこっちを見上げてみゃあみゃあ言ってる白いヤツを抱え上げる。
痺れた足で足踏みしたり足首を回したりしながらそいつの肉球をぶにっと潰したり顔面を片手でがっつり掴んだりしていると、
寝ころんでいた黒いヤツを同じように抱き上げてその頭をわしわし撫でながら
スコールが何だか尊敬したような見直したような目でこっちを見た。


「あんたよっぽど猫が好きなんだな…知らなかった」

「何言ってやがる」


確かに猫は好きだがな、と抱えた猫を地面に下ろしてやりながら少し身を屈めてスコールの顔を覗き込んだ。


「俺がこの手で一体誰を落としたと思ってんだ?」


台詞を理解できずにクエスチョンマークを飛ばしているスコールの尻に付いた毛を手ではたいて落としてやる。
ついでに、無防備なその顔面にぶちゅっと一発。
放置されていた買い出し荷物を拾い上げて一足先に路地を出る。

路地から出て少し歩いた場所で振り返る。
薄暗い路地の中で多種多様な猫の中に突っ立って、顔を赤くしながら黒い猫を抱えてまだクエスチョンマークを飛ばしているスコールを見て、

俺は声を上げて笑った。
























2007.07.04

色んなサイスコサイトさんで、
サイファー犬嫌い説や実は犬大好き説や猫好き説や
色々見掛けますが、実際はどうなんでしょうかね?

たまには猫科なスコールもいいですよね!




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