「ただいま…」

「おっ、やっと帰って来たかスコール」

「これ頼む」

「あ?」


2週間ぶりに長期任務から帰還した麗しのマイラバーは帰ってくるなり熱い 抱擁で迎えようとした俺にでっかい紙袋を押しつけてくれやがった。

「何だこれは〜?」

「晩飯の材料」

いや、そりゃわかるだろ。
何か卵とか入ってるしよ。

そんな俺を差し置いてスコールはさっさと着替えるために部屋に入っちまっ た。
いつもは交代でやってる料理を2週間もすっぽかしてたもんだから妙に気合 が入ってるらしい。

いや、別に俺にメシ作ってくれるのはいいんだけどよ。
お前料理上手いしな。
つーかそこじゃねえよ。
恋人同士の抱擁やらただいまのチューやらをよこせ!!
と、俺は言いたいんだよ!

邪魔者の紙袋をどっかとテーブルの上に投げ出すと、ちょうどいいところに 着替え終わったスコールが出て来やがった。

「おい、スコール」

紙袋をごそごそ漁ってるスコールを抱き寄せようと手を伸ばしたら……

何故か俺がつかみ取ったのは、パン粉。

「それ、揉んどいてくれ」

俺にそいつを手渡した張本人はそうのたまって、いそいそと何たらのフラ イにつけ合わせるためのキャベツを千切りにし始めやがった。






キッチン事情






トントンと包丁がまな板を叩く音が響く。

そんな状況の中、俺は必死こいてキャベツを刻んでるこいつの横に立って パン粉をざくざく揉んでる訳だ。

…つーかよお、2週間ぶりに会ったってのに指一本触らせてくれねえっての は残酷じゃねえか?
そりゃ確かにどことなく嬉しそうにしてるのはわかるけどよ。
俺はメシより先にてめえを抱きしめてぇんだよ。
こう……むぎゅ〜っとだな。
あ〜クソ!!俺はこんなパン粉よりてめえを揉みてえっつーの!!

……だがしかし、だ。
あいつは凶器持ってるからなあ。
背後からガバーッと行ったとしても危険だよな。

…………。
…………。
…………。

…………クソ、イライラするぜ。


目をやるとそこには結構真剣に千切りに取り組んでるあいつの斜め後ろ姿。
…相変わらず細ぇ首だよなぁ。
髪なんか柔らけぇんだよなぁ、オレと違って。
…………。

……触りてぇ……。

いや、ダメだ!!刃物を持ったこいつは場合によっちゃ命に関わる!!
俺はまだ長生きしたいからなぁ〜。


見てるとムラムライライラして来るからとりあえずスコールの後ろ姿から根 性で視線を引きはがした。
そうすっと自然と神経はキャベツを切り刻む単調な音に集中する訳で。

トントントントン……

……あー。そういやこいつの任務先ってどこだったんだっけか?
夜中携帯に電話したのにつながらなかったんだよな。

トントントントン……

こいつ絶対電源切ってたよな。
こいつならやりかねんしな。

トントントント


あ。
切りやがった。


…………

案の定単調に続いていた音が止まった。
珍しいな、こいつが切るの。
救急箱どこだったか……

……トントントン

って再開するんかい!!
しょうがねえなあ、こいつは。

「おい、スコール」

そう言って背後からその両手首をつかむ。

「サイファー?」

有無を言わさず左手を取り上げると、人差し指の横っちょが切れてやがった。

「まあ、あんま深くないな」

「…何でわかるんだよ…」

「あ?明らかにキャベツじゃねぇモンを切る音がしたじゃねえかよ」

あれだな、肉を切る音。
メシ前に考えるこっちゃねえけどな。

「お前が手ぇ切るなんて珍しいな」

「……あんたがじろじろ見るから変に緊張したんだ」

そう言ってスコールはムッとした顔でそっぽを向いた。
おーおー、むくれてやがる。
オレに恥ずかしいとこ見られたとか思ってんだろうな、これは。

そんなことを思いながらニヤついている俺の腕から逃れようと、スコール が何やらうごうご動き出した。

「何だよ」

「消毒するんだ。放せよサイファー」


ああ、消毒な。
よし、オレ様が直々にしてやろう。


スコールが手に持っている凶器……もとい包丁を取り上げてまな板の上に置 いてとりあえず身の安全を図ってから、
奴の傷口にわざと音を立ててキスし た。

「バ……!何やってんだ!!」

「消毒〜」

暴れたり殴られたりされたらたまったもんじゃねえから、空いた方の腕をス コールの腰に巻き付けてぐいっと引き寄せる。
細ぇ腰だよなー、とか思いながら傷ついた人差し指を咥えた。

……柔らけぇ指。
普通ガンブレなんか使ってるともっと硬くなるんじゃねえのか?
俺のがずっとゴツイぞ。
まあ、こういう手になりたい訳じゃねえけどな。
この手はこいつだからこそ似合ってるってことだ。うん。

納得しながら傷口に舌を這わせて目を上げると、あ然とした顔で俺を見て たらしいスコールと目が合った。
奴はまさにはじかれたって感じで俯いて……
その顔がぐわ〜っと真っ赤になったりしちまって。

……おいコラ。てめえ、可愛いぞ!!
反則だろその反応は!!誘ってんか!?

いきなりキた勢いにまかせてがぼっ、とその指を喉の奥の方まで咥えたら、

「何してんだ馬鹿ッ!!」

バシッ!!

力一杯脳天はたかれた。
……ハッキリ言って、超絶、痛ェ。
こいつ本気ではたきやがったな!?
それならこっちだって本気だぞこの野郎!

「おら!スコール揉ませろ!!」

ガバーッと覆い被さって髪に思いっきり頬ずりしながらむぎゅう〜っと抱き しめた。

あー、落ち着く。
これだよこれ、この薄さ!
何つーかこう、満足感っつーの?
大袈裟に言やあ生きててよかったって感じだよな、まさしく。


…………。
…………。
…………。

……あ?大人しすぎ…る…かも。
……やべっ。

「サイファー?」

慌ててスコールから離れようとしたが時すでに遅し。
奴の両腕が俺の腰に回って……。
いや、普段なら嬉しすぎるっつーか普段はこんなことねえから逆に恐いんだ ってスコール!!
何か笑顔だしよお!!

「サイファー?…そこにある煮えたぎった油を全身に浴びるってのは……どうだ?」

「スイマセンゴメンナサイ」

脂汗だらだら流しながらぎこちなーく手をどけると、奴はフンッてな感じで踵 を返してまたキャベツに向き直った。








……結局できあがったメシを美味い美味いって喰ってたら機嫌直ったみたい だけどよ。
いや、マジで美味かったからそれはそれでいいんだがな。
俺としては奴を抱きしめてぇっつう欲望が満たされてついでに腹も満たさ たからそれだけで充分。


揉むのはシャワーの後ってことにしてやるかな。
腕が鳴るぜぇ〜?





















教訓:キッチンは武器が多すぎるから次からは重々注意することにしよう。







































2001.10.07

サイハーさんと同じ経験したことあります。
ハハンがキャベツ千切りしてる音をパソに向かいながら聞いてたら、
トントントンザク
「切りやがったな!?」←私
「あたり〜」←ハハン
あたり〜じゃねえよハハン。指半分持ってかれてんのに。(涙)

……煮えたぎる油のネタがわかる方、お友達になりましょう。(笑)


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