一階ホールの吹き抜けから赤と緑の垂れ幕が長々とぶら下がっている。
廊下の植え込みに赤い小さなリボンが飾りまくってある。
すれ違う生徒どもがやけに浮かれている。
校庭のステージ方面からにぎやかな音楽が聞こえて来る。

極めつけには案内板の真ん前にどっから持って来たのやらどでかいクリスマスツリーがでんとディスプレイされている。



変なことにだけやる気を出しまくる学祭実行委員どものおかげで
今やガーデンはクリスマス一色になっていた。


何でも今夜はガーデンを照らす照明にも赤と緑のゼラが貼ってあるんだそうだ。

……そんな予算どっから出してくるんだか……







恋する条件







オレ様、サイファー・アルマシーは、クリスマスが嫌いだ。


他に祭り騒ぎ出来る日は全部好きだったりするんだが、

クリスマスだけは、限定で嫌いだ。


知りもしねぇ奴の誕生日祝うなんて意味が解らねぇ。
誕生日祝うなら復活も祝えとか思う。
ここぞとばかりにカップルがいちゃつくのもむかつく。
ついでに言うなら前日と当日どっちがめでたいのか解らなくなってるところも腹が立つ。

それより何より一番嫌いでむかつく原因は、日付だ。
加えるならプレゼントを渡す習慣も嫌いだ。


そんでもって俺がクリスマスの日付を嫌う理由は、

12月22日。

俺の誕生日がそこにあるからで。


孤児院にいた頃、誰かの誕生日の度にママ先生がケーキを焼いてみんなでそいつにプレゼントを渡したもんだ。
が、俺の誕生日はと言うとそうは行かねぇ。
たった3日後にクリスマスが控えてやがるから俺のためだけのケーキもプレゼントも、
クリスマスの野郎と2個1にされちまって嬉しくも何ともねえ。

俺は自分で言っちゃあ何だが欲張りなガキだったからな。
自分だけ年内にもらうプレゼントが1個だけっつーのが気に入らねぇ訳だ。

それでも一度だけ。
ガーデンに入る年にママ先生が

「みんなには内緒ですよ?」

と22日に小さいケーキを買って来てくれたことがあった。


「ハッピーバースデイ、サイファー」


その言葉と共に額に落とされた祝いのキス。
今思うとアレが俺の初恋なんだよな。

と、この話をした時の奴らのうけ様は殺したいくらいムカつくから思い出したくもねぇ。



しかし、まったくその「クリスマスの呪い」はガーデンに入っても有効で
今まで付き合った女もダチ共も、雷神風神ですらプレゼントは2個1にしやがる。

まぁ今は大人だからな。
プレゼント云々とかはもうどうでもいいんだけどよ。
ケーキも。甘いモンは苦手だし。

今は何より「俺の誕生日」自体がクリスマスとか言う知らねぇ奴の誕生日に消されがちだつうのがムカつく原因だ。



今年も然り。
まぁ今までと違うのはプレゼントが22日に渡されたっつうことだ。

24、25日は任務でいねぇって知ってたからな。これが。
またこういうのがムカつくんだよな。

センセーはセントラ語で書かれた「魔女の騎士」原文を「セントラ語辞書」とセットでくれた。
勉強しろと言いてえらしい。
セルフィはてめぇと同じくらいの身長の真っ黒いクマ人形をよこした。
曰く「毛がふさふさしてて〜気持ちいいんだよ〜」らしいが、マジでいらねぇ。
アーヴァインの野郎は実は前から欲しかった小型銃を。
いざって時のためにガンブレ以外の武器が欲しいよな〜と零してたのを聞いたらしい。
嬉しかったから礼として頭に一発入れといた。
チキンはパン。
夢がねぇが美味かったから許した。

そしてスコールがくれたのは、
何つーか、

現金。


無造作に渡された封筒開けて札が見えた時にゃ流石の俺も止まったぞ。
そんな俺を見てスコールは

「それで好きなものを買え」

なんつー成金オヤジみてえなことを言いやがった。
俺の人生で一番インパクトのあるプレゼントだよな、アレは。
夢値はマイナスだが。







「うー、寒ぃー…」

どこぞの田舎貴族が開いたクリスマスパーティーの警備なんつーくそつまらねぇ任務を抜けて、
帰って来たのが2300。

パーティーはまだ終わってねぇんだが、その田舎貴族の娘がやたらとベタベタうざいし、
しまいにゃベッドにエスコートしてくれそうになったもんだから残りの一日を雷神に押しつけてさっさと退散して来た。
好みじゃねえ訳じゃなかったんだけどよ。
あんまケバケバした化粧もやる気失せるよな。

学園長に報告して、ついでに訓練所で汗流して0030。

そろそろ寮に帰るかってことで今、一階ホールの廊下を歩いてる。
相変わらずアホらしい飾りのついた廊下は、それでも深夜だけあって寒い。

…マジで寒い。
さっさとシャワー浴びて酒かっくらって寝るか。


そう思いながら寮への渡り廊下にさしかかった俺の視界に人影が映った。

明かりも消えて真っ暗な中、廊下のてすりにもたれて頬杖をついてるあの姿は……

「スコール?」

そう呼びかけると影は素早くこっちに顔を向ける。
遠くの明かりからぼんやり照らされたその顔は、やっぱりスコールだった。
あいつは男なんだから当たり前だが、化粧気のない顔を見るのは何となく落ち着く。

「何してんだこんな時間に。寒くねえのか?」

「いや、死ぬほど寒い」

そういったスコールの顔はほとんど真っ白に近かった。
吐く息も俺みてえに白くなってねぇし、
よく見ると産まれたての子犬みてぇにぶるぶる震えてる。

「あ?大丈夫かよ」

グローブを脱いでスコールの顔にさわる。
情けねえことだが思わず変な声を上げそうになっちまった。

紙みたく真っ白な肌が、マジで"死ぬほど"冷たかったから。


「バッカ野郎!!風邪ひく前に凍死すんぞ!!何やってんだてめえはさっさと部屋帰ってシャワー浴びて寝ろ!!」

いきなり怒鳴った俺にスコールはすげぇ変なひきつり方をして、
それから黙って首を振りやがった。

つまり、立ち去る気はねぇと。


「帰れよ」

「……」

「マジで死ぬぞ?」

「……」

「いーのか?」

「……」

「寒いんだろが」

「……」

「シカトすんなっつーの」

「……」

「おいスコール?」

「……」


…どうやらとことんシカトするつもりみてぇだな…。

最初見た時と同じポーズに戻ってぼーっと寒空を見上げている。
俺の方も訓練所で上げた体温がガンガン下がって行きやがるし。
これが夏とかならほっといてもいいんだけどよ、こんな寒くちゃなぁ。
明日の朝凍死体とかで発見されやがったら夢見悪ぃしよ。

…………

だあ!!どーすりゃいいんだコイツ。
こうなったら引きずってくか!?

そう思ってがっしと肩をつかんだ。
相変わらずの革ジャケットも凍ってねぇか?とか思っちまうくらい冷てぇ。

「冷てっ。…テメ、いつからここにいたんだよ」

「…………23時」

「あぁ?」

23時?
23時っつーと俺がガーデンに帰って来た時間だよな。
任務を終えたSeeDの帰還が連絡されるのは学園長と、指揮官のコイツ。
そん時からコイツが寮の入り口にいたっつーコトは……

「…あー、もしかして、待ってた?」

違ったらめちゃ恥ずかしいよな、とか思いながら訊くと、スコールは黙って頷いた。

「あんたに用があって……」

「用?」

コイツが俺に用?
珍しいこともあるもんだなオイ。
何だ?わざわざ待ってるぐらいだからすげぇことか?
もしかして最高難度の任務とかか?

「サイファー」

"用"を想像してぐるぐる考えている俺に、スコールが呼びかけて来た。
顔を上げると奴が"こっちに来い"みてぇに手招きしてやがる。

「何だよ」

大股で近づくと、コートのポケットに入れていた俺の手を引きずり出して
何か箱みてえなモンを押しつけた。

「何だ?……ぉわっ!」

それを確認しようと目を逸らした隙をついてスコールが両手で頭をわしづかんで来やがった。
一瞬の早技。
何が何だかで硬直すると、今度はものすげえ力で頭を引き下げられた。
何だ首もがれるのかよ!?と思った瞬間。

一瞬。

ほんの一瞬、冷たくて柔らけぇモンが俺の額…傷の辺りに触れて、離れた。
それに続いて


「メリークリスマス、サイファー」


と震えた声で囁かれて、頭を解放された。

















……あ?
何つーか、何だ、今のは?




変な前傾姿勢でフリーズしちまった俺を見て、
フリーズしてる間に立ち去ろうと思ったのかスコールが慌ただしく寮の入り口に向かってダッシュ

……しようとしたが寒さで足が硬直したんだろうな。
妙な格好でずっこけた。

ああー…。ありゃ、恥ずかしいな。


よたよたとスコールが起きあがるのを待って、またもがっしと肩をつかむ。

「…!!」

「で?何だよコレ?」

驚いて振り向いたスコールの前に箱をぶらぶらさせながら言うと、
スコールは多少色の戻った顔を俯けてため息をついた。

「…クリスマスプレゼント…」

「……あ?」

「だから、クリスマスプレゼントだっ」

……クリスマス、プレゼントだぁ?
そんなもんにわかに信じられねえから

「え。俺に?」

なんて確認したら

「……いらないなら返せ」

めちゃ怒った声で凄まれた。

「いや、もらえるもんはもらっとくけどよ…何だ?どういう風の吹き回しだ?」

おわ、もしかしてこーやって物で釣っといて後ですげぇこと要求すんのか?
そう言う手口なんか?お前。


「…ママ先生が」

またもぐるぐるしてる俺の手を肩からはがしながら、スコールが言う。

「初恋なんだろ?」

あー、あぁ、そういやそんな話したっけな。
ムカつくからあんま思い出したくねぇけど。

「だから…同じことすればあんた、俺のこと好きになってくれるかな、なんて思っ、て……

それだけだ。


消え入りそうな声でそこまで言って俯いたつむじを見つつ、
俺の脳内、より混乱。

つーか、直球で考えればコイツ今、俺が好きだ、と。
今、そう言ったのか?!
え、ま、待て?
考えるまでもなく俺は男でスコールもお綺麗なツラしてるけど男。だぞ?
う…う〜〜〜……?


「サイファー」

またしても変な前傾姿勢でフリーズした俺を見かねて、
スコールは拳で俺の胸を叩いた。


「深く考えなくていい……言ってみただけなんだから…」

我に返った俺を見上げて素っ気なく言い放つスコールが

少し眉を寄せて妙に切なそうで、眼とか潤んでて、しかもまだ何か震えてて、
寮からの明かりで髪とか光って見えて、

そして耳から首筋までタコみたく真っ赤になって。






…………うわ。

俺、何か今すげぇコイツのこと可愛いとか思ってるんだけど。
つーか男同士だとかどーでもよくなって来てるんだけど。
何かものすげぇコイツの告白どんと来い状態なんだけど。

てゆーか、好きになっちまったみてぇなんだけど。

え、いや、マジで。
こいつ、欲しくなった。


「……おやすみ」

尚もフリーズし続ける俺に何かを諦めたのか、スコールが背を向ける。
そのジャケットの裾から腕を入れ首の方から出して、思いっ切り引き寄せた。

「っ、サイファー!?」

「もらえるもんはもらう。つったろ?」

「え」

戸惑うように見上げてくるスコールを後ろからぎゅうぎゅうに抱きしめる。

ああ、お前可愛い。
ホント、今、惚れたって。

「もらう」

「サイファー…」

「俺からのクリスマスプレゼントは"オレ様一生分"でいいか?」


冷え切った髪に鼻先を埋めながら訊くと、
スコールはまた真っ赤になって嬉しそうな恥ずかしそうな顔で小さく頷いた。


「あー。俺、クリスマス好きになった」

俺の独り言をいぶかしんでまた見上げてくるスコールの髪をぐしゃぐしゃに掻き回して。
まずはお互い冷えた身体を暖めるために俺の部屋に向かった。








クリスマスが嫌いだなんてとんでもねぇ。

前言撤回だ。
これから先、プレゼントもキスも両方くれる愛しい愛しい恋人が出来た日。

今年から一番好きでめでたい日に格上げだ。


……ま、プレゼントに夢は求められねぇけどな。
















ちなみにこの時の箱に入ってたプレゼントっつーのは "ガンブレ手入道具一式"もちろん新品。

「実用品がいいに決まってる」

とか言うけどよ。




あいつ、やっぱ夢ねえわ。











































2001.12.23


はい〜、と言うことでクリスマス記念述べるです。
やっぱ企画モンは早めに用意するべきですね…(瀕死)
今気づきましたがこれまでで一番長い…。

身内に12月26日産まれの男がいるのですが、そいつのコトを考えながら書いた述べるでもあります。
いっつも25日にプレゼント渡されてたよなー…。と。(哀)
かく言う私もイベントが誕生日なので、一緒くたにされてはがゆい思いをしております(笑)
それにしてもタイトル。
は、恥ずかしいいぃぃぃー!!
のでタイトル色もピンク*
私タイトルは大抵書く前に決めて(決まって)しまうので、もう、直感。
いつでも直感たいとぅーですよ。
それにしてもコレは…。
そして内容もなんか恥ずかしいものになってこれはタイトルを付けた時に決まった運命なのかと。
最初はこんないちゃこいてくれるとは思ってなかったので…。





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