「ふぁ……」


ほんのりと春の風が辺りを包む、やたらと空気の穏やかな午後。
教員が来るまでの僅かな時間にパネルを起動させながらスコールは大きな欠伸をした。








昼寝日和








(眠い……)

ぼんやりとそんな事を思いながらぺしりと自分の方頬を叩くと、すぐ隣から小さく吹き出す声がした。
じろっと睨み付けるが隣に座るサイファーはかまわず偉そうに見下ろしてくる。
…そう言うところが大変むかつくのだが、今のこの状況ではカッとしても馬鹿を見るだけなので、我慢する。

いつもなら違う机に座っているはずなのに狭いまでに密着して座っているのは何のことはなく次の授業の人気が高くて
生徒数が多い故の詰め込み策。

「すっげぇ欠伸」

「うるさい…」

眠いものはしょうがないのだ。
奇しくも気温は人間が一番快適に過ごせる25℃。
昼食の後で胃は適度に満たされていて。
太陽は布団を干したら最高の干し具合になるだろう柔らかな光で。
開け放たれた窓からは緩やかな風が吹いてきて頬を心地良く撫でて。
ついでに湿度も最適。

それはもう昼寝日和。

いつもならばこれ位の眠気は気にならない。
なのに泥のように机に顔を埋めたくなってしまうのは、

(…課題をやる暇がなかったからって3日ほとんど寝ないのはやりすぎたか…?)

そう頬杖をつきながら思う。
もう一度口を手で覆って欠伸をすると、サイファーが覗きこんで来た。

「何だ。寝てねーのか?」

「いや、寝てはいる…」

「じゃ、いーじゃねーか。俺なんか2連徹だぜ」

(そんなこと威張れる事じゃないぞ…て言うか寝ろよ少しは)

ただでさえ狭い思いをしているのに胸を張って威張るサイファーに思ったことは口に出さずに溜め息を吐く。
その吐き出した息が熱くなっていて、それにまた溜め息が出た。
日差しのせいだけではなく身体が内部から熱くなってきて更に眠気を強めて行く。

(…とりあえず、この授業だけは…)

折角睡眠時間を潰して終わらせた課題の提出があるのだ。
眠って等いられない。
そう自分を奮い立たせて今度は両手でぴしゃりと頬を挟み、
「親父臭ぇぞ」とサイファーが笑うのをとりあえず無視した。
















授業が始まって5分。

しんとした空間にキーを叩く音と教官キスティスの声だけが響いている。
それを聞きながら鈍い頭痛と散漫になる集中力を叱咤してキーを叩き続けていると、
隣の巨体が規則正しく呼吸をし始めた。

(こいつ……)

そっと目をやると案の定。
サイファーはどっかと机に肘をつきやや俯き加減に目を閉じて、動かない。
ゆっくり上下する肩と金色な頭と横顔に窓から射す光と微風を全開に感じながらとてつもなく気持ちよさそうに寝息を立てている。

(……羨ましい………じゃなくて…)

あまりに気持ちよさ気な寝息にぐらっと夢の世界に誘われかけて、慌てて目を逸らした。
陽に当たってぽかぽかと暖まっている首筋に手を当て頭を振って眠気を追い出しにかかるが、
ひとつ振る度にそのまま首が折れてしまうのではないかと思うほど頭が重い。
またひとつ、溜め息を吐いてみる。
しかし

(……眠い…)

少しでも気を抜くとそのことしか考えられなくなってしまう。
時折意識が遠くなるような気がする。
何だか胃が引き攣れているような感覚がして目の奥が渋く痛い。
また頭を振ろうと目頭を押さえ──

それがいけなかった。

自分の手の影で瞼の外が暗くなった瞬間、
ぐらり、と上体が揺れて倒れ、ぼふんと何かにぶつかったところで
意識が飛んだ。
















(……俺、寝てる…)

数分の後、
そう自覚したのは根性だったのか何だったのか。
無理に瞼をこじ開けようとするがまるで上の瞼と下の瞼が瞬間接着剤でくっついてしまったように開かない。

(起きないと…課題…)

ぐぐっと身体に力を入れ、最後の力を振り絞って体勢を立て直そうと頭を上げると、
何やらなま暖かい遮蔽物にぶつかった。
何度も何度も挑戦するが遮蔽物は一向になくならない。
それどころかそれに暴れる頭をぐいっと元の場所に押し付けられてしまった。

「…………」

遠くの方でキスティスが何か言っている声が聞こえる。
寝てはいられない。

(ああ……でも…)

陽が当たっているのが暖かくて、
気温があまりにも心地よくて、
風からはうっすらと春の花のいい香りがして、
そして何より寄りかかっている物から太陽のにおいがして。
それが暖かくて。

(……気持ち良い……もう…いいや…)

頬に当たる暖かい布の感触にぐりぐりと顔を押し付けて、
スコールは完全に意識を放棄した───。




















「……あんた達はこういう時だけ仲良いのね…」

日溜まりの中。
サイファーの肩に顔を埋めて、スコールの頭に自分の頬を乗せて。
お互い熟睡モードに入ってしまった二人を見下ろし憮然と溜め息をつくと
キスティスは手に持った生徒名簿の2人の名前の横に嬉々として「課題未提出」と書き加えたのだった……。



































…ちなみに目覚めた時の2人の狼狽え様はあまりの面白さに
一月先まで話題に上ったとか
上らなかったとか。



































2002.04.02


この日(書いた日)は本当に昼寝日和で。
んもー気持ち良いの何のってその上徹夜だわでねっむーーー!!
最高潮でした。あれは拷問です。

ところで私が描く絵や述べるで寝てるシーンが異様に多いのは私が寝るの好きってのと(殴)
寝てるのって心安らぐ風景だなぁ…と思うからです。多分。
寝てる動物って可愛いですよね。(動物扱いか)





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