「はぁ?忘年会?」


極寒の雪山での長期任務を終えてやっと帰ってきた自室で、
厚手のエアテックジャケットのポケットから取り出した携帯から出し抜けに聞こえてきた誘いの言葉に、
サイファーは一瞬嫌な予感がした。






『だから』






「そうだよ〜今いつものメンバーで集まってるからさ〜サイファーもどう?」


「忘年会来ない〜」と気の抜けた声で電話をかけてきたのは、アーヴァインだった。
相変わらずの間延びした声が妙にイラつく。


「どうも何も…今から報告書あんだよ」

「えーそんなの明日でいいじゃーん」


しかも、既に結構出来上がっているようだ。
酔っぱらいの電話に付き合うことほど疲れることはない。
さっさと電話を切るに限る。


「つーか、だりィ。眠ィ」


「ちょっと、気の抜けたこと言わないでよ〜ホラ、セフィもゼルも来て欲しいって」


確かに携帯の向こうで「おいでよー!」と甲高いはしゃぎ声が聞こえる。
ゼルの「言ってねぇよ!」というツッコミも。


「今日はスコールもいるんだよ!そういえばサイファースコールと飲むの初めてじゃない?折角の機会だから来なよって」


スコール。とその名前を聞いて、嫌な予感はコレかと思う。
今でこそ普通の付き合いもあるが、以前はまさに犬猿の仲。
顔を突き合わせては刃物で威嚇し合うような殺伐とした仲だったのだ。
今だってトレーニングで試合をしたりたまに食堂で一緒になったりするが、一緒に酒を飲んだりするような気安い仲と言う訳ではない。
どんな顔をしてそんな微妙な仲のスコールと酒を飲めというのか。
気まずい以前の問題だ。疲れそうだ。疲れる酒の席なんて御免だ。


「…やっぱ行かねえ」

「えー!何で!」

「どうだっていいだろが。今日はだりィから寝る。そっちで勝手に楽しくやってろ」


そう言って一方的に通話を切ろうとすると、アーヴァインの焦ったような声が携帯から響いた。


「わかった!サイファー、タダでいいよ!」


…なにが「わかった」なのかさっぱり解らないが、そのセリフは確かにサイファーの決心をぐらつかせた。
タダ。
タダ酒。
これ以上魅惑的な言葉はない。
ふと財布の中身を確認してみる。
長期の任務で銀行にも寄れなかった財布の中身は、任務地以上に寒いことになっていた。


「……………行く」









電話口で告げられた忘年会会場は、バラムの商店街の外れにあるこぢんまりとした居酒屋だった。
いつも仲間うちの飲み会はここだ。
代わり映えのない奴らめ、と思いはするが、ここ以外に安くてつまみの旨い店はどこだと聞かれてしまえば、それはサイファーにもわからない。

我がもの顔で入店し、いつもの席に足を向ける。
ついでに途中のカウンターでおばちゃんに生中を頼むと、じゃあコレ。と枝豆を渡された。連中のつまみらしい。
サイファーもすっかりこの店の常連だ。こうしてついでに持ってけ、と扱われるのは慣れている。
はいはい、と枝豆を片手に角席に向かうと、そこには見知った顔が並んでいた。


「あ!サイファーきたー!枝豆もきたー!」

「任務お疲れさま」



手を振って大袈裟に喜んで見せるのは、セルフィだ。
その隣に、一升瓶を傍らに常備したキスティス。
その向かいでスコールが黙々とグレープフルーツを搾っている。顔も上げない。
スコールの向こうに電話して来たアーヴァイン。
そして、一番手前がゼルだ。
正に、いつものメンバー。だが。
配置が妙だ。いつものメンバーでも、サイファーが参加している時は男女入り交じって座っている。
こんなに見事に女子と男子が別れたりはしない。
そもそも男子4人に女子2人でバランスが悪いことこの上ない。
男子側の席がきつい。

その妙な配置を訝しみながら見ていると、端っこに座っていたゼルがおもむろに立ち上がった。


「俺、便所。サイファーつめて座れよ」


そしてそれだけ言って逃げるように店の奥に消えた。
つまり、サイファーも男子の方に座れということらしい。

無駄に高い身長でテーブルの状況を見下ろしながら思う。
つまり、それはスコールの隣に座れと。

何だか既に帰りたくなってきたが、それを言い出す前に生中が運ばれて来てしまった。
今更帰るとも言い出しにくい状況だ。
諦めてマドラーでグラスの中身を黙々と掻き混ぜているスコールの隣に腰を落ち着けると、戻ってきたゼルに帰る道すら塞がれた。


「そいじゃあ改めてカンパーイ!」


セルフィの音頭に、何に乾杯なんだか解らないながらも各々がグラスを上げる。
並々とビールの注がれた冷たいジョッキを一端テーブルに置き、サイファーはつまみに手を伸ばす。
酒も飲みたいが、腹が減っていた。
既にグラスがいくつも置かれたテーブル上のつまみを取ろうと身を乗り出すと、隣のスコールと肩が触れ合った。
ふと目をやると、思ったより近くにスコールの無表情な横顔がある。
やはりこの席は居心地が悪いと実感した。

そもそもスコールとは一緒に飲むどころか、食事をしたことすらない。
そりゃ任務の野営地でレーションを集団で食べたことくらいならある。
だが、大体サイファーはスコールとは離れた場所に落ち着くことが多いから、こんな近くに座った状態では初めてだ。
普段なら感じることもない左隣の気配に、妙に構えてしまう。
だが、別に隣だからと言って話し掛けねばならないという訳でもない。
スコールも向かいのキスティスと酒の席とは思えないお固い話しに花を咲かせているし、
そんなに意識することもないだろう、と目の前にあるジョッキに手を伸ばす。
なみなみと注がれたビールに口を付けようとしたその時、
ビールを持った腕にぼすん、と何かが当たった。
その衝撃のお陰で溢れんばかりだったビールが、正に溢れて零れてサイファーのズボンを濡らす。

腕にぶつかって…正確には、のし掛かって来たのは、無論隣で黙々と生搾りグレープフルーツサワーを飲んでいたスコールだ。


「おい!」


何しやがる、そう言おうとして目に飛び込んできたのは、さっきまでそこにあった無表情な横顔ではなく、
スコールのつむじだった。


「あーあ、スコール寝ちゃった」


向かいでちびちびとカルアミルクを舐めていたセルフィが残念そうな声を上げる。
寝た?
そう思って腕にかかった頭をどかすと、無表情のまま目を閉じてぐたりとしたスコールがそこにいた。


「今日ペース早かったもんね。あ、スコールって酔っぱらうとすぐ寝ちゃうんだ〜その辺にほっとけば勝手に起きるよ」

「…おう」


ソルティドックの塩を指で落としながら声を掛けてくるアーヴァインに返事をしつつ、
その寝顔らしきものを横目に見てみるが、それはとても寝顔というものには見えない。
恐ろしいまでの無表情だ。生気がまったく感じられないので、死んでいるように見えなくもない。
というか、スコールが酒に弱いとは知らなかった。知る機会もなかったのだが、こんな風に他人の前で無防備に寝るようになっているとは思ってもいなかった。
そもそも、自分の酒癖を把握されるほどこの連中と飲んでいるという事実にも驚いた。
こいつもやっぱり変わったんだなあ…とサイファーが感慨深いものを覚えながら、今度こそビールを飲み干そうとした瞬間、むぎゅ、と腰に何かが巻き付いた。


「ぎゃああ!?」

「おあ!冷てえ!!」


完全に油断していた所への突然の衝撃に心臓が口から飛び出そうになった。
手に持ったジョッキをテーブルの端にぶつけてまだ一杯に入っていたビールがまたジャバーと零れる。
今度はゼルが被害にあったようだ。
手元にあったおしぼりをゼルに投げつけつつ、何事が!?と視界を下に移すと、そこにまたスコールのつむじが。
さっきまで隣で死に顔じみた寝顔を晒していたスコールが、
サイファーの腰に抱きついていた。しかもかなりの力でもって。


「…………………」


咄嗟のことに言葉も出ない。
これはどうすれば。軽く混乱した頭で考えてはみるが、出てくる答えはひとつしかない。
つまり、


「離れろ!!!気持ち悪ぃ!!!」


男に抱きつかれるなんて真っ平御免だ。それに尽きる。
腰に巻き付いている腕を解こうと手を掛けるが、ぎっちりと締まった腕は剥がれる気配すらない。
むしろ解こうとすると逆に締め付けて来る。


「あーーーいてててて!?」


ぎぎぎと肋骨すら圧迫してくる痛みに悲鳴を上げるサイファー。
こいつホントに寝てるのか!?と疑いたくなる力だ。


「よしなさい、サイファー。スコールの腕はもがけばもがくほど締まるわ」

「そうそう、容赦ないよ」

「我慢しろ、我慢」


あまりの痛みに酒瓶を薙ぎ倒してテーブルに突っ伏すサイファーに、方々から声がかかる。
その口振りからして既にコレを経験済みだということが解る。
なるほど、女子と男子が別れて座っている訳だ。
これを女子にやったらセクハラだ。痴漢行為だ。スコール以外だったら女子陣から容赦ない平手を喰らいそうだ。

とりあえず、忠告を聞き入れて腕を解こうとする手を外してみると、腕の締め付けは確かに緩んだ。
ふう、とスコールが満足そうな息を吐く。本格的に落ち着いてしまったようだ。
更にサイファーが大人しくなったことを気をよくしたのか、抱きついたまま片足に頭を乗せて来る。
もうサイファーは悲鳴を堪えるのに必死だ。
男に、膝枕。
全然嬉しくない。
嬉しくないどころかある意味泣きたい。


「何かサイファーとスコール見てると孤児院にいた頃を思い出すわね」


そんなサイファーの心情を知って無視しているのか、知らないのか、外野連中は暢気に昔話など始めている。


「あー、そういえばスコールよくサイファーにひっついて寝てたよな」

「ああ、そういえば。何か可愛かったよね〜」


確かに、スコールはエルオーネがいなくなった後辺りから、サイファーと一緒のベッドで寝ることが多くなった。
サイファーは多分、それは自分の体温が高かったからではないかと判断している。
スコールは子供の癖に体温が低かったから、寒い冬はサイファーの体温が心地よかったのだろう。
あの頃のスコールは掛け値なしに可愛かったしからサイファーも悪い気はしなかったが、
今はもう成人だ。顔の造作が整っていることは否定しないが、可愛かったあの頃の面影はほとんどないと言っていい。
女と違って筋と骨の浮いた固い腕で抱きつかれても嬉しくも何ともない。


「そうそう、誰にも懐かないスコールなのにサイファーだけ別だったよね〜子供心に羨ましかった〜」


そんなに羨ましいなら今代わってくれ!今すぐ!!
そう訴えたかったが、腰に懐いたスコールはまた寝たらしく静かになっている。
また引き剥がそうとして痛い目を見るのは嫌だ。
もう勝手に起きて驚くなり気味悪がるなりなんなりすればいい。
さっさと酔ってスコールなど意識しない状態になってしまえばいいのだ。
そうと決まれば飲むぞー!と生温い腰の体温を無視してジョッキをがっつと掴んだその瞬間、


「サイファー好きだーーー!!!」

「ああ!!??」


今度は下方からすごい雄叫びが聞こえた。
驚きに取り落としそうになるジョッキを辛うじてテーブルに置き直す。
すさまじい音量だったが故に、サイファーはその内容を聞き逃した。
何つった?!と思う間もなく、スコールはまた同じ内容を繰り返す。


「サイファー好きだ!!!」

「はあ!!??」


今度は聞こえた。きちんと聞こえたが脳味噌が理解することを拒否した。
サイファー好きだ?
なんだそれは。


「サイファーすーきーだーーー」


言葉の意味を理解しかねて頭の中を真っ白にしているサイファーを余所に、スコールはまた間延びした声で繰り返す。
そして俯せていた顔を上げた。
顔色は変わらない。普段と同じ血色の悪い白い色だ。
しかし、顔つきがダラケている。締まりというものが全然ない。
半眼になった目の焦点も合っていない。
つまり、酔いどれの顔だ。
それを見たら、何だかもういちいち反応しているこっちが馬鹿らしくなって来た。


「ああビックリした、スコール随分悪酔いしてるわね、珍しい」

「いつもはこんなんじゃないのにね」


突然の大声に耳を押さえていたキスティスが店の迷惑でしょ、とスコールを窘める。
いつもスコールと飲んでいるらしいメンバーからしても今のコレは珍しい状態のようだ。


「サイファー好きだ好きだ好きだー」

「うっせえよ。もういいだろ離れろ」


太腿にぐりぐりと顎を擦りつけながら平坦な声でぶつぶつ言うスコールの頭を叩く。
トチ狂った発言はもう無視するとして、覚醒したらしい今なら離れるかもしれない、と腰に回された腕を再び解こうとする。
と、


「嫌だ!!!」

「いてえ!噛むな!!!」


今度は解こうとした手に噛み付かれた。
慌てて手を引っ込めると、すごい歯形がついていた。
手加減と言う物を知らないのが酔っぱらいだ。 殴ってやりたいところをぐっと我慢して、もう本当にスコールは無視しよう!と決める。
が、そうはいかなかった。
他連中の話題に入ろうとする度に、酒を飲もうとジョッキを手に取るだけでも
スコールがぎゅうと腰を抱く腕に力を込めるものだからたまらない。
話の輪に加われないし、酒も飲めやしない。
散々邪魔されて、いくら酒の席でもいい加減キレそうになる。


「てめー!いい加減にしろこの酔っぱらい!」


拳を脳天に落としながら怒鳴りつけると、スコールはやっと相手をしてもらえた、というようにへらりと笑った。
そして今自分にゲンコをくれたサイファーの手を両手でぎゅっと握りしめる。
妙に冷たい手にサイファーはまた悲鳴を押し殺した。


「痛い。しかしそんな乱暴なサイファーも好きだ」

「ああはいはい。俺は嫌いだ」

「何だその薄い反応は!俺に好かれて嬉しくないのか!」

「むしろ御免被りたいんだよ!手ェ離せ!」

「何故だ?俺が好きだって言ってるのに解らないのか!」

「解りたくもねえよ!!つーかうるせえよ!」

「俺とお付き合いしたいとか思わないのか!俺は引く手数多だぞ!」

「じゃあそっちと付き合え!」

「嫌だ!俺はあんたが好きだ。だからあんた俺のものになれ!」

「"だから"の意味わかんねーよ!」


万力のような手でしっかりと手を掴まれて終わりの見えない押し問答を続けながら、
サイファーはもう嫌だ…と心底思った。
タダ酒が飲みたくて来たのになんでこんなことに!


「あんた、俺が嫌いなのか?」

「ああ嫌いだ。だから手を離せ」

「損はさせない、俺のものになれ!」

「嫌だっつってんだろ!」

「さっきは嫌だとは言わなかっただろ、だからの意味を否定されただけであって」

「じゃあ今言う。死んでもお前のモンなんかにゃならねえよ!」

「まさかもう誰かのものなのか!?」

「あーあー、もうそれでいいよ」

「誰だ、誰のものなんだサイファー!言え!そいつからあんたを奪い取ってやる!」

「うっせー!俺は誰のものでもねえよ!俺のモンなんだよ!」


野郎に手を握られた妙な構図のままでの不毛な問答にいい加減嫌気が差した。
手を掴む力が緩んだ瞬間に、があ!と手を引き剥がし、腹を蹴りつけて床に転がす。
床に蹴倒されたスコールは俯せたまま、静かになった。
これでやっと、今度こそ本当に落ち着いて飲める…とサイファーが中ジョッキに改めて手を伸ばしたその時、
足元から地を這うような禍々しい声が聞こえてきた。


「そうか…あんたはあんたのものなのか…」


ゆらり、と床に蹴り倒されたスコールが起き上がる。
妙な威圧を感じさせる佇まいにサイファーは一瞬怯んだ。
その隙を逃さず、スコールは目の前の男の胸倉をガツッ!と掴む。


「そうなればあんたは俺の恋敵ということだな!?あんたを賭けて俺と勝負しろ!!」

「意味わかんねえよ!!」


掴んだ胸倉を押し放し、決闘を申し込む!とその辺にあったさきイカをサイファーに投げつけるスコール。
べしっと頬にさきイカを投げつけられてサイファーもいい加減、キレた。


「……………」

「サ、サイファー!酔っぱらいの言う事なんか気にするなって!なあ!」


みしり、とサイファーの持つジョッキにヒビが入ったのを見て、ゼルが顔を青くしてフォローに回る。
ここでサイファーまで我を忘れて暴れたらシャレにならない。店が壊れる。

確かに、目の前のスコールは酔っぱらいだ。ありえないくらい酔っぱらいだ。
全部酔っぱらいの奇行だ、戯言だ。怒ったって酒が不味くなるし体力は使うしいいことナシだ。
そうだ。落ち着け俺。酔っぱらい相手にキレてどうする!
何とか目の前のダラけた表情のスコールを視界から遮断し、サイファーは自分に言い聞かせる。
だが、そこで思いもかけない声が上がった。


「いいじゃない、やっちゃいなさいやっちゃいなさい」

「さすがキスティス!わかってるな!よしサイファー表に出ろ!!」


目の前の騒ぎもなんのその、テーブル上の料理をパクついているキスティスだ。
そのセリフがツルの一声とばかりにスコールも勢いづいた。
唖然としているサイファーの襟首を掴んでソファから引きずり下ろすと、そのまま出口に向かって歩き出す。
ゼルも触らぬ神に祟りなし、とさっさとどいて道を空けた。


「痛ェよ!締まってるから離せ!つか、俺は行かねえぞ!」

「つべこべ言わずに表出ろ!それとも怖じ気づいたか!!」

「んだとこの…」

「サイファー」


問答無用で引きずられる中、テーブルから声が掛けられる。
酔っぱらいをブン殴ろうと腕を上げた状態のまま振り返ると、キスティスが箸を持った手をひらひらと振っていた。


「さっさと落として持って帰ってね」


他連中まで「がんばってー」だの「適当になー」などと言いたいことを言っている。
つまり、うるさい酔っぱらいをさっさと気絶させるなりなんなりしてガーデンまで持って帰って寮にぶち込んでおけ、ということなのだろう。
押しつけられた。


「てめーら恨むぞ…」


がっくりと肩を落としながら唸ると、「ごめんねえ〜」とセルフィの暢気な声が聞こえてきた。
その一声に毒気を抜かれる。
くそ、もういい。さっさとスコールを落として、そこら辺に転がして店に戻ればいい。
どうせ酔っぱらいだ。5分もあればカタがつくだろう。
そう思って前を行くスコールの後を追った。









「しかし…『サイファー好きだ』とはねえ…」


サイファーとスコールが抜けてから3時間あまり。

所狭しと酒瓶、ジョッキ、グラスが散乱するテーブルと向かいの席ですでに正体をなくして寝入っている男共を眺めつつ、キスティスは溜息と共に言葉を漏らした。
セルフィは相変わらずその隣でちびちびとカルアミルクを舐めている。4杯目だ。

まさか、あんな本音を聞くことになろうとは。
軽く仕組んでみたとはいえ、予想外の展開に驚きを隠せない。

スコールは、アルコールに弱い。
軽く引っかけるだけですぐ寝てしまう。
そして、目が醒めるとすぐ近くにいる人間にしがみつきながらくだを巻くのだ。
普通なら耳元でグチグチ言われるのは嫌なものだ。
しかしスコールのそれは面白い。何しろ普段があの無表情、愚痴すら表に出さない人間だ。
そんなスコールがいつもは何てことない顔で指示を仰いでいる学園長をあの狸爺ィ呼ばわりしたり、
クライアントをハゲ親父だと罵ったりグダグダだった任務をおままごとかよクソと愚痴ったり表には出せない数々の暴言を吐いてみたり。

スコールの本音を聞ける貴重な場面であり、数少ないスコールのガス抜きでもあるのだ。酒の席は。

だから、不謹慎ながらサイファーが来ると解った時点でどうなるか楽しみだったというのが本心だ。

以前はあれだけ険悪だったスコールとサイファーの間柄なら、どんな罵詈雑言が飛び出して来るかと思っていたら、スコールの発した言葉は「サイファー好きだ」だった訳だ。


「まあ、本音と言えば本音なんでしょうけどね…」


複雑な想いを抱きつつ、目の前にあったサイファーのジョッキを飲み干す。
時間の経ったビールは生温く、炭酸も抜けて飲めるものではなかったが、残すのも勿体ない。


「まあ、いいんじゃない?サイファーに構ってもらえてスコール嬉しそうだったし」

「そうね…まあ、お似合いといえばお似合いよね」


恋人同士、というのはまあ置いておくとして、スコールとサイファーが並んでいる構図は、何故かしっくりと来る物がある。
それは幼少期からガーデンにいる2人だからとか、いつもいがみ合っていたから、とかそういう理由ではない気がするが、実際のところどうしてその構図がしっくり来るのかはハッキリとは解らない。


「今頃どうしてるかな〜」

「さあね、サイファーも戻ってこないし、案外仲良くやってるのかしら」

「流血沙汰だったりして〜」

「それもあり得るわねえ…やだやだ。じゃ、ま、帰りましょうかそろそろ」


一応スコールに気を利かせて2人で先に帰してはみたが、サイファーはすぐに戻ってくると思っていた。
だが予想外にサイファーは帰ってこなかった。まさか本当に仲良くなってどこかにしけこんでいる…とは思えなくもないが、それはそれで何だか嫌な気がする。
セルフィの無邪気な発言に、まさか帰宅途中で死体とバッタリなんてことはないわよね…と冷たいものを感じはするが、まあ、何があったかは明日サイファーにでも聞けば解ることだ。

嫌な予感を振り切って寝入った男共を起こしにかかる。
ハメを外すのもいいが年末は忙しい。明日も任務だ。













その夜、ガーデン付近で男の悲鳴を聞いたとか、
サイファーがスコールを引きずって部屋に帰っていったとか、
そんな妙な噂が立つのだが、それはまた別の話で。























おしまい。




2005.12.16




…ということで冬のリンクラリー参加作品でした。
何故か多くの方から「爆笑しました!」とのコメントを頂いた作品。
ど、どこら辺にツボが…!!??(衝撃)

なんだかダラダラ書いていたらすごい長くなりました…予想外。
そして、書きたかった部分がそのせいでカットになるという(爆)
そこは書け次第アップしま…!
クリスマスネタという…もう過ぎてるけど書くことに意義が(吐血)

いやー長かった…。

皆に遊ばれる愛されるスコール。
サイファーさん一滴も酒飲めてません。可哀想ですね!(笑)

ちなみに、セルフィが延々カルアミルクなのは、
酔っぱらうとすさまじい絡み酒で収拾がつかなくなるのを
自覚しててセーブしてるからです(自分で)




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