俺たちは恐ろしく円満なようだ。





カンバセイション05





「ただいま」

「おーお帰り」


今日も今日とてつまらない書類仕事を終えて部屋に帰ると、
先に帰っていたサイファーはソファに埋もれて毎週欠かさず見ているらしいドラマを放映しているテレビを見ながらひらひらと右手だけを振った。

いつものことだが、お疲れの一言も、ましてやこっちを向こうという気配すらなく。

付き合い出してからというもの、サイファーは素っ気ない。
それはヤツの持っているかなりズレた恋愛持論に基づくものだ。


「ただいま」

「んー」


念のためにもう一度声を掛けてみたが、
テレビが映し出す安っぽいドラマに夢中のサイファーはやっぱり声だけを返して寄越す。

いつも思うのだが、この男は俺をないがしろにしすぎているのではないだろうか。

いや、それを言われれば俺自身も多々そう言う部分があるような気がする。
そもそも俺たちの関係自体、恋人らしいかと問われればそうでもないような気がする。
友人からの延長と言う訳でもなく、ライバルからの延長と言うわけでもない。
ましてや幼馴染みのそれとも違う。
ただただ一緒にいる「だけ」の関係のような気がするから、
俺もサイファーを大きく気に掛けたりはしないのだ。

だからこそ、文句の一つも言えないのだが。
こう毎回だと流石にムッと来る物がある。

だから、その後ろ頭を睨みつけながら、今サイファーが見ているドラマでよく使われるような、普段の俺じゃ絶対言わない女のようなセリフを吐いてみることにした。
流石にあの男も驚いてこっちぐらいは向くだろう。

いや、向かせてみせる。


妙な闘志に取り憑かれた俺は、深く考えもせず口を開いた。



「あんた…俺とテレビとどっちが大事なんだ?」

「テレビ」

「…………!!!」



その場で俺は衝撃に凍り付く。
後頭部を力一杯がつんと殴られたような衝撃。
真面目にショックを受けるのもアホらしいとは思うが、流石に即答は効いた。

結局俺を視界にも入れようとしなかったサイファーの後ろ頭を視線が凶器だったら殺せるかもしれない位に睨みつけながら、よろよろと後退する。
大して広くもない部屋だ。どん、と背中はすぐ壁に当たった。


この男にとって俺はそんな下らないテレビよりも取るに足らない存在なのだろうか…
俺はテレビとサイファーだったらサイファーを取るぞ、間違いなく取るぞ。
バトルとサイファーだったら…正直迷うかもしれないが、きっとサイファーを取るのに。

大体この男は掃除はしない洗濯物は畳まない、休みの日はずっと寝てる。
しかもこの仕打ち。
俺はサイファーにとって、どんな存在なんだ?

もうこれを機に別れてお互い幸せになる道を模索した方がいいのでは…。

それでもそんなことを思うだけで実行できない自分が憎い。
何でそんなにこの男のが好きなのだろうか。自分が理解できない…と


「スコール」


ちょっとショックに打ちひしがれて壁と仲良くなりかけた俺の背中に、
相変わらずテレビの方を向いたままだがサイファーはこっち来い来い、と
手招きし、続いて自分の隣をぽんぽんと叩く。

…ああ言う行動も付き合い出してからだと思う。
あの行動を見るたびにサイファーは俺をペットか何かと勘違いしてるんじゃないかと腹が立つ。

逆らえない自分が嫌だが、
それでも男の隣を求めてしぶしぶソファに腰を下ろすと、
テレビを見たままのサイファーにぐりぐりと頭を掻き混ぜられる。
そして相変わらずこっちを見ないまま一言。





「だってテレビは終わってもお前はここにいるだろ?」



「…そりゃ、そうだ」


















『目の前にある物がまずは大事』


そんなサイファーの恋愛持論はちょっとおかしい。
ちょっとどころではなく、一般の常識から考えれば逸脱していることこの上ない話だと思う。

サイファー曰く、俺へ向ける「大事」は無意識下で延々と続いていくもので、
普段気にもかけない。
だから、目の前にぱっと出て来る継続しないものに対する「大事」の方が、瞬間的に勝るのだ、と。
そんなことを一度した大喧嘩の後に言われた。

正直、かなり捻じ曲がった持論だ。
釈然としないのも本当のところだが、
その考え方がとてつもなくサイファーらしいと思ってしまって、

それならいい、と納得してしまう俺も俺。





何を言ったら怒る。何を言ったら傷つく。
何をしたら怒る、何を言えば、すれば機嫌が一発で直る。
…何をどうしてしまえば、完全に終わる。


お互いのパターンを読み尽くしてしまっているから。
何を言おうと何をしようと、本気でそうしようと思わない限り、
なまじ痴話喧嘩にもならない。







俺たちは恐ろしく円満なようだ。



































2004.02.10


…と、久々のカンバセでございました〜。
そもそも久々の述べるで…(汗)

ウチのサイハーさんの大事規準はこんな感じです(爆)
ただそれを書きたかったのでありました…。

そう言えばスコールがいつもと仕様が違う気もしますが。
まあ、毎回違うと言えば違うので…
このサイハーさんにはこんなスコがお似合いかなと(笑)

いえ…正確には手の流れるままに書いてたらこうなったってだけのことなのですが!
(行き当たりばったりもいいところだよ)
冒頭の部分が昔の述べると同じなのも他意はなく…
サイハーさんってそんな感じなイメージあるんで…(苦笑)

…なんか…もうちょっとラブラブしないものかとも思いました(汗)


再録本収録のため説明不足だったりしたところを加筆しましたが、
ページ数の関係でカットになってしまったので…アップします(涙)
2004.10




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