「……なあ、サイファー」

「あんだよ?」

「俺、昨日告白されたんだ」

「へ…。ほー、羨ましい。おモテになるこって」

「男子に」

「あぁ!?」



日当たりのいい昼下がり、ガーデンの裏庭で。


昼寝でもしようと午後の授業をサボった俺に珍しくついてきたスコールのその一言に俺の眠気は見事にブッ飛ばされてしまった。








カンバセイション02








……畜生。先越された。

あいつがモテるってのは昔からそうだったし、その辺の女子どもに告白されてもさっぱりなびかねぇから安心してたら…
ついに男からも告白されるようになってやがったのかよ。

……まぁ、俺も人のこと言えねぇけど。


スコールのことはずっと前から好きだった。
まあ正確に言うと年がら年中一緒にいるせいでいつ好きになったのかとか全然覚えてねぇんだけどな…。

今問題なのはこの俺がその辺の一般生徒に出遅れたってことだ。

「…誰だよ、クラスのヤツか?」

内心焦りまくってるのをうまく隠してさりげなく訊くと、スコールは無言でうなずいた。

「あんたがサボった時よくペア組まされるヤツ」

俺がサボった時…っつーとアイツか。
くっそ、何であんな鈍くさそうなヤツに!!

サボりまくる俺にも責任はあるんだろうけどよ、つか、戦闘訓練以外かったるくて出てられるかっつーんだ!

「…で?何つわれたんですかねぇ?」

「何が?」

「その、"告白"とやらのセリフだよ」

「ああ、……"あなたが好きです"とか"あなたが欲しいです"とか」


……ちと待たれい。

"あなたが好きです" は、まあいい。アレだ。告白の代名詞ってヤツだからな。
だがよ、"あなたが欲しい"っつーのは何だ!!

あの野郎…今はまだだがいつか俺のモノになるスコールにそんなこと言うとはいい度胸してやがる!!

「メールで」

よぅし。明日辺り訓練施設に呼び出して……
てな感じでかなり殺る気満々だった俺のテンションは、スコールの一言で急にダウンした。

「あー!?メールだぁ?ケッ、情けねぇ。男なら面と向かって言いやがれってんだ。なあ?」

必要以上にでかい声で言うと、スコールはまたも無言でうなずく。

……どうでもいいがそのリアクションやめろ?
何か微妙に可愛いから。

「そうだな。あんたならそう言うと思った」

「で?何てお返事したんだよ、その告白メールに」

「そりゃお断りしたさ。好きじゃないし」

そう言ってスコールは邪魔そうに髪を掻き上げる。
絵になるよなぁ…とか思って見とれて、そこで俺は気づいた。
男から告白されたなんてことを人一倍プライドの高ぇこいつが俺なんかに話す理由。

つまりは、言外で俺に向かって

"あなたが好きです"

って言ってる訳だ。

イコール。今俺はカマかけられてるんだな。
ものすげぇ嬉しい反面、生意気にも俺にカマかけてくるスコールをいじめてやりたくもなる。

「なあ、何で俺にそんな話すんだよ」

「さあな」

にやにや笑いながら言うと、流石にスコールも俺が「気づいた」ことに気づいたらしく、
ふいっと向こうを向いた。

「言えよ。こっち向けって」

上体を起こしてスコールの後ろ頭を人差し指でつっつく。
案の定それを振り払おうとスコールが手を出してきたので、俺はその手首をつかんだ。

「っ、…あんた、俺にそれを言わせるのか?」

「てめぇみたいのに言わせるからいいんじゃねえか。言っちまえよ減るもんじゃなし」

「……」

俺に手首をつかまれたままスコールはまた黙って向こうを向きやがった。
だんまりかよ。

でもよ、スコール。
俺がだんまりぐらいで引くわけねぇってのを知ってるのはお前だと思うんだがな?

「はー、へーへーわかりました。スコール君は俺とセックスしたいと、そういう訳でいいんだな?」

「バッ…!!」

ぺいっと手首を放してやる気なさげに言うと
思った通りにスコールは真っ赤な顔をしてこっちを向いた。

……いやぁ、ことごとく引っかかってくれるな。こいつ。

「ん?そうだろが」

「違う!!俺はあんたが好きなだけでそんなとこまでは……!!」

そこまで怒鳴っておいて、スコールはすげぇ勢いで自分の口を手で押さえる。
がぼっ、といかにも間抜けな音が聞こえた。

もう遅いっつうの。
…いや、実際自白してくれるとは思ってなかったけどよ。

「聞いたぜ」

何か言いたげに睨みつけてくるスコールににやにや笑いながら言ってやると、

「…ああもう……畜生…」

くぐもった声で呟いて頭を抱えた。
そしてそのまま髪をぐしゃぐしゃに掻き回す。
地面に着いてた手でそれをやるもんだから草の端やら何やらがからまっちまってまるでアレだ。
鳥の巣。

「いいじゃねえか。お前は俺が好き。俺はお前が好き。見事両想い成立だろ?」

「……そうだけど…」

こみ上げてくる笑いを堪えながら微笑ましい惨状のその頭をぽふぽふ叩くと流石に顔は上げたが、
それでもスコールはまだ動こうとしない。

いい加減我慢がきかなくなった俺はスコールのファーを引いて自分の方に引き倒した。

「ぅわ!」

「うごっ!?」

不意打ちで慌てたスコールは反射的に地面に手を着こうとしたのか……
力一杯、
俺の顔面を押さえやがった。

「…あ、悪い…!」

スコールも慌てて体制を立て直したんだがよ。

痛いなんてもんじゃねえ。
……体重+a。
ついでに後頭部も打った。
一歩間違ったら死ぬぞ…つか、あぶねぇ鼻折れるとこだったぜ…。

「テメ、何しやがるオレ様のメンリーフェイスに…」

「……自分で言うか?そういうことを」

「そーいうことを言う男が好きなんだろ?てめぇは」

「ああ、そういうことを言うあんただから好きになったんだ」

そう言って照れたように笑うスコールに、俺はマジでヤられた。
マジで、今こいつ好きになってよかったな、とか思っちまったよ。


昼飯の後で腹は一杯。ついでに天気もよくて日差しも柔らかくて絶好の昼寝日和。

そんな時にこいつから「好きだ」なんて言われる。

これ以上のシアワセがどこにある?
いや、ねえ!!


幸せついでにさっきまでの眠気がぶり返してきやがった…。
もう一度スコールの腕を引いて今度はちゃんと地面の上に引き倒すと、そのままぎゅーっと抱きしめた。

「サイファー?」

「人間型抱き枕〜」

何を思ったのか腕を突っ張って逃げようとするスコールに言うと、途端に抵抗が止んだ。
まぁ、ホントは期待に添えるようなことの一つや二つでもしてやりてえとこだがな。
今はこの襲い来る眠気の解消が最優先。







「蹴るなよ?」

「蹴るわけねえだろ」


そんな会話をして腕の中にある愛しいぬくもりに頬ずりして。






眠りに落ちた俺は

スコールに蹴っ飛ばされてこっぴどくフられる夢を見た。





































2001.10.29




ああ…多分今までで一番の難産ですよこれ…。
いつも難産だと思われたらそれは至極まっとうなご意見です(笑)
制作過程においてスコールの1人称→3人称→サイハーさん1人称。とめまぐるしい変化を遂げていただきました。





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