カンバセイション01 RRRRRRRR……… …………。 RRRRRRRR……… ……うるせぇ……。 RRRRRRRR……… 「だあぁっ!!うるせっつってんだろうがよ!!」 がばっと布団をはねのけ起き上がって、俺は今まで埋まって いた枕を力一杯けたたましい電話に投げつけた。 ガトン、と音を立てて枕が電話にヒットする。 お、流石オレ様。百発百中。 よし、2度寝だ2度寝。と布団をかぶったその時、 RRRRRRRR……… 枕の下でくぐもった音が聞こえた。 ……しつけぇ……。誰だってんだ一体!! 再びがばっと布団をはねのけて起き上がった……が。 頭がぐらぐらして重てぇもんだからよろめいちまった。 う…重てぇ……。まだ身体寝てやがる…。 ふらふらしながら電話まで歩く。クソ、しっかりしやがれ、俺の身体!! べしべしと自分の横っ面をはたきながら受話器を上げる。 ……流石にさっきはアタマまで寝てたからあんな暴挙に出たけどよ。 これが緊急召集とかだったら減俸モンだからな。 「あ゙ー、……もしもし!?」 うお、我ながらすげぇ寝起き声だな。 水でも飲むか、水。 そう思って冷蔵庫まで歩いてミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、 ──あ…?サイファー? 聞こえて来たのはスコールの声。 あ…?って何だよ。こいつも寝ぼけてんのか? 間違い電話だったら切るぞ。今すぐ。 ああ眠ぃ……。 「んだよスコールか。何だってんだこんな朝っぱらから」 ──あ、起こして悪い…。 流石にあいつもばつが悪そうな声になる。 一般常識は身に付いてんだな、一応。 「で、何だよ用件は。……あ?そういやお前今日早朝任務じゃねーのか?」 炎の洞窟の向こうっかわで密貿易船の見張り……だったよな。確か。 早朝だって聞いてこいつがすげぇげんなりしてるの見たからな。 ──いや、俺たちはメンバーから外れた。 「?何でだよ」 そこまで言って俺はやっとペットボトルに口をつけた。 冷てぇ水が食道を通って胃にたまる感覚が寝てて温まった身体に気持ちいい。 ──事故った。 「あ?」 ──ガーデン車輌が事故った。スクラップ行きだ。SeeDも何人か負傷して……今病院にいる。 事故。と言う単語に俺の目は一気に覚めた。 しかもスクラップだ?何しやがったんだ一体。 「スクラップぅ?おいおい冗談じゃねえなそりゃ。で?怪我は?」 ──2人が骨折……1人は意識不明だったがさっき気がついた。 「馬鹿か?てめぇだよ」 ったく相変わらず自分の状態考えねぇ人種だよなお前は。 ──俺?俺は…胸と膝の打撲と左手首の捻挫だけだ。 「お、軽傷じゃねーかよかったな。でもまあ、しばらくガンブレは使えねえだろうな」 手首の捻挫なら、全治2週間ってとこか? げ。じゃあその間手合わせできねーじゃねえか。 しゃーねえ、訓練施設で我慢すっか。 「で?その任務に代わりのSeeD入れたのか?」 残り僅かだった水を飲み干してペットボトルをゴミ箱に投げ入れてから、スコールに声をかける。 しかし、俺の声に答えたのはしーんとした沈黙。 ……あ? 「スコール?」 またも沈黙。 電話が切れたか? ん〜?でも向こうで人が動き回る音は聞こえるな。 「おい、スコール!!聞こえてんのか!?」 ──……。 大声を張り上げると、少しだけスコールの声がした。 「あ?声が小さくて聞こえねえぞ」 そう聞き返すと今度はさっきより幾分しっかりした声が聞こえてくる。 ──……びっくりした。 「おい?」 何だ?いきなり変なこと言い出したぞ? ──…びっくりしたんだ。いきなり真っ暗になって動けなかった。 「スコール……?」 ──死ぬと、思った。 そのセリフを聞いて、 いつもは張りと神経質ささえ感じさせるあいつの声が震えていることに気づいた。 「スコール?おい!スコール!?大丈夫かよ?」 弱々しく掠れたあいつの声。 ……泣いてんのか? ──……っ、 慌てて声をかけると受話器の向こうでスコールが深呼吸をするのが聞こえた。 ──大丈夫だ…。 悪い、今パニックしてるんだ。任務で命を落とすならともかく、あんなことで死ぬなんて夢にも思ってなかったから……。 それを聞いて俺は少し安心した。 ……そのテの恐怖なら、俺にもある。 まだ死への覚悟が出来上がってねえんだろうな、こいつは。 まぁ、俺も出来てるとは言えねぇけども。 死ぬなら、戦場がいい。当然だ。 「何ビビってんだよ。天下のSeeD様がそんなんでいいのか?」 ……まぁ、オレも少しビビったけどよ。 弱気なこいつって何か心臓に悪いぞ。 ──いや、よくない。 お、いつものあいつの口調。 やっと調子戻って来たか。 「だろうが。で?代わりのSeeD入れたのか?」 ──ああ、そっちの方は一番に手配した。 「んだよ。なら俺んとこに電話する必要ねーっての」 何のためにオレの安眠妨害しやがったんだぁ? ただの報告だったら直接会ってでもいいじゃねえかよ。 と、そんなことをぐちぐち言ってやると、 ──いや…… 何つーか躊躇いがちなスコールの声が聞こえてくる。 「何だよ」 ──…あんたの声聞いたら死ななかったんだなって実感湧いてきた。 「…何だそりゃ」 人を勝手に何か変な基準にしてんじゃねえだろうな? 殺しても死なねえとか思ってんだろうな、こいつ辺り。 俺もニンゲンなんだから死ぬっつうの。普通は。 ──別に…… おわ、出たぜ。「別に」。 「あー、で?こっちには何時ぐらいに帰って来んだ?」 ──ああ。意識不明だった奴の様子を見て……昼前には帰る。 「あいよ、じゃあそれ伝えとくぜ」 ──ああ。 あ〜?やっと会話終わりかよ。 今何時だ? おわ、もうこんな時間かよ。2度寝も出来やしねえ。 「…ふぁ〜あ…。誰かさんが安眠妨害してくれたおかげで今日の俺は早起きだぜ。…ったく。 う〜っ、朝メシでも食って来るかな」 受話器を首で挟んだままぐぐっと伸びをすると、伸びきってたみてぇで背中からすげぇ音がした。 ついでにハラもすげぇ音を立てる。 そういや昨日の晩はいつもより食わなかったんだっけか。 ──そうだな。それじゃ。 「スコール!……手首治ったら一戦しようぜ」 安っぽいいたわりの言葉なんざ俺はかける気もねえが、あいつもかけられる気はねえだろう。 だからこの一言で十分だ。 ──……ああ。安眠妨害して悪かった。じゃあな。 「おう」 そう言って電話を切り上げたはいいものの、何となくすぐ切る気にならねえ からしばらく耳に受話器を当ててぼ〜っとしてたら、 受話器の向こうでガサガサッと何かが動く音がして ──……ありがとう、サイファー……。 不意にスコールの声が聞こえてぶつっと回線が切れた。 …………。 多分、あれだよな。 絶対俺がもう電話切ったと思って言った言葉だよな。 ……聞いちまったっつーの。 つーか素直じゃねえよなぁ、あいつも。 可愛いとこあんじゃねーか。 まあ、何つーかはたから見たらアブナイ奴だけども。 電話片手に笑いをこらえながら考える。 そいじゃあ、あいつが帰って来たら 「どういたしまして」 っつってあいつの驚いた顔見るってのもいいかもな。 その瞬間を想像しながら、俺は静かに受話器を置いた。 2001.09.15 事故って事故る方ってスローモーションになるって言いますけども 見てる方もスローですよね?(聞くのか) いやぁ、10年来の友人が飛んで行くのを昔見た思い出が……。 捻挫で済みましたけど。いやぁ、アレはショッキングです、よね?(また聞くのか) 今回は事故ったと言うより落石注意の道で落石ヒット。ていう感じで書いてますが。 ちなみに今回のお二人は「おつきあい」前です。 おつきあい前の方が書きやすいんですよ……。 |