朝の食堂はにぎわっている。

食べ盛りの学生共がぎゃあぎゃあと騒ぎながら朝一番のエネルギーを摂取し、
かつ放出する場所だ。
席はほぼ満席、おいしいおいしい朝ご飯のたてる湯気と厨房の火の気と
学生共の発散する熱気でガーデン内の他の施設よりも実際温度が3度は高い。


さて、そんな食堂の一角にそんな暑苦しい温度をさらに上昇させそうなカップルがここに一組。


「はい、アービンあ〜んして?」

「ええっセフィ、こんなところでっ」

「いいから!はい、あ〜ん!」

「あ、あ〜ん…」

「おいしい?」

「おいしいよ、セフィ〜」


ピンクのオーラがムンムンだ。ハートが見える。
目に痛い。更に暑い。暑苦しい。
正真正銘できたてホヤホヤ、アッツアツのバカップルだ。






恋愛ってヤツは






ラブラブぶりが微笑ましい。なんてのは建前で、正直立ち寄りたくもない。
食堂の一角をピンク空間に仕立て上げていたアーヴァインは、
セルフィから「あ〜ん」してもらったミートボールをモグモグやりながら壁に掛けられた時計を見、
そしてしょんぼりと肩を落とす。


「あ、もう時間だよ…セフィ、君と離れるのは辛いけど…」

「うん、お仕事がんばってね!」


しょげ返る恋人の肩をバンバンと力強く叩いて、エールを送る。
そんなかわいいかわいいセルフィの両手をアーヴァインはぎゅうと握って顔を寄せた。
怖い。目が血走っている。


「すぐに帰ってくるからね!浮気とかしちゃダメだよ!?」


ちなみにアーヴァインが出掛ける任務はたったの2日だ。
心配ぶりが尋常じゃない。


「しないよ〜大好きなのはアービンだけだもん」


心配された方はと言えば、にっこり笑って小首をかしげ、
何ともかわいらしいことを言ってのける。
そんなセリフを言われて、アーヴァインはダバァと感動の涙を流した。
これまた暑苦しい。


「嬉しいよっセフィ〜!!すぐ帰るから!!」

「いってらっしゃいv気をつけてね〜」


いってらっしゃいvと共に恋人のほっぺにむちゅ、と可愛いキスを送って、
セルフィはえへへと嬉しそうに笑った。
キスされた方は、なんかもうそのまま天国に行ってしまいそうにでれっと相好を崩し、


「行ってくるよ〜〜セフィ〜〜〜!!愛してるよーー!!」


チュッとアホっぽく投げキッスをかますと大声でそう食堂に響かせダバダバと駆けて行った。
セルフィはそんなアーヴァインが見えなくなるまで大きく手を振って、
でもって見送りが終わるとテーブルについて朝食を再開させる。
にっこにこの、満面笑顔だ。



さて、そんな暑っ苦しいバカップルを同じ食堂で眺めていたカップルがここに一組。


「おい、見たか?アレを」

「見た。…暑苦しい」

「アーヴァインはともかくあのセルフィが…恋愛ってヤツはこえぇな、オイ」

「恐ろしい…」


残念なことにカップルとは名ばかりの付き合ってかなり長い熟年夫婦だ。
カッサカサの乾燥ぶりだ。クールすぎて見ているとちょっと寒い。
あの2人を見て何か感じるところはないのか?と誰もがツッコミたくなるほどの乾燥ぶり。


「人間、好きな人間が出来るとあんな行動を恥ずかしげもなく取るもんなんだな。理性もへったくれもない」

「見ろ、鳥肌立った。暑ぃのに」


まくった腕をズイと眼前に寄せてくるサイファーをうるさそうに追い払って、
スコールはスープを啜る。


「まあ、1月もすりゃ治まるだろ。最初ってなぁあんなモンだ」

「へえ」


俺たちあんなだったっけ?そんな疑問が普通なら湧いてくるだろうが、
スコールは手元に集中しているからか無関心にそれだけ返す。
何に集中しているかと言えばオムレツに入っているグリンピースを器用にほじくり出してサイファーの皿に転がす行為だ。
ちなみにこの2人にそんな時期はなかった。


「あ、時間やべぇ」


スコールの皿から不法侵入してきたグリンピースを片づけながら壁に掛けられた時計を見、
サイファーはのんびりと声を上げた。


「あーあ、かったりぃなあ」

「遅刻するな。キリキリ行ってこい」

「はいはい」


時間がやばいと言うのに、暢気にまだ朝食をつついているそのテーブルの下で臑を蹴り上げてくるスコールに辟易してサイファーは席を立つ。

こっちの任務は3ヶ月にも渡る長期間だ。
無関心っぷりが尋常じゃない。


「あ、サイファー」


席を立ったサイファーに続いて、スコールも立ち上がる。
肩を指でつついて注意を引き、振り返ったサイファーの首に両腕を回して、
何事かと開きかけたその唇にちゅう、とキスを。
可愛いなんてモンじゃない、かなりディープなヤツ。
された方は一瞬びっくり。しかしすぐスコールの腰に腕を回す。

しばしの沈黙。

そしてたっぷり3分ほど経った頃、2人はやっとこ顔を離した。
一つ息をついたスコールは、サイファーの唇にもう一度軽くキスして、
にやりと笑った。


「いってらっしゃい、ハニー」

「行ってくるぜダーリン」


バカップルごっこも悪くねぇな。
そんなことを1人ごちながら上機嫌で去って行くサイファーの後ろ姿など既に眼中になく、
スコールはさっさと食器を片づけに向かった。




さて、食堂の角席で任務報告なんて堅苦しいことをやっていた金髪がここに一組。

本日の仕事のために食堂を去るスコールの後ろ姿を眺めながら、
今のところ色恋沙汰には興味ない金髪2人は呟いた。


「怖いわねー…恋愛ってヤツは…」

「そうっすね…」




今日もガーデンは、概ね平和だ。

多少、暑苦しいのが問題点だが。


































2006.08.10

いつだったか、付き合いたての友人がすごくて、
「恋愛って…こえぇー…」
と思ってネタが出来ました(笑)

熟年だけどバカポーな2人。
ちょっと真似てみたくなったんですよ!

金髪2人組はゼルと、キスティスで。




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