もしも、言葉を発することで
その先の沈黙が怖くなるのならば
沈黙が最良なのだろうか。
愛情というモノにも
それは当てはまるのだろうか。
もしそうならば、

俺は














朝日













「サイファー」

「…よう、リノア」




2Fデッキでタバコを吸ってる後ろ姿に声をかけたら、白いコートを風にバタバタ言わせてるサイファーは まず首だけこっちを向いて、
次に体ごとこっちに向けてタバコを持ってない方の片手を上げた。

「どーだ?魔女の修行順調かよ」

そう言って笑うサイファーは少しやせたかもしれない。
わたしはいつも通りの笑顔を作って、サイファーの隣で手すりによりかかった。
海から吹いてくる風が涼しくって気持ちいい。

「うん、頑張ってるよ。……ねえサイファー、ちゃんと休んだ方がいいよ」

「……休んでるぜ、俺は。今もここでこーやってサボってるしよ」

「うん、そうだね」

でも、サボってるのバレちゃってるよ、サイファー。
キスティスに聞いたらここにいるって言われたから来たんだけどな、わたし。

思ったけど、口には出さなかった。むくれて「うるせーな」って言うの聞きたかったけど、
それよりも今日は……どうしても聞いておきたいことがあったから。

「ねえ、サイファー。スコールが……いなくなってからもう半年たつけど…」

スコールごめん。ばらしちゃうけど、怒らないでね?
そう心の中でつぶやいて、きっ、とサイファーを見上げる。

「スコール、サイファーのこと好きだったんだよ、知ってた?」

わたしが言うと、あの、サイファーがうろたえた表情をした。それから、気まずそうに俯く。
手すりをつかむ手に力が入ってる。

「……ああ」

俯いたサイファーが、絞り出すように言う。
そんなんじゃすぐにわかっちゃうよ。嘘だ、って。
嘘はつかない主義なのに、一生懸命嘘をついてる。
わたしと、……それから自分に。
……そうだよね?知らなかったんだよね?
それだけが知りたかったの。
ああ、何かスッキリしちゃった。

「ふふ。嘘が下手だね、サイファー」

「……うるせえよ」

笑って言ったら、サイファーはむっとした表情で返してきた。


「サイファー、スコールのこと好きだった?」

「ああ、心底な」

「恨んでる?いきなりいなくなったこと」

「……恨んでなんかいねえよ」

「相変わらず優しいね」

「弱いだけだ」

「……」

「……」


やっぱりホントにお互い、知らなかったんだよね。
二人ともびっくりするくらい相手に自分の気持ちを知られないように必死で、それだけお互い好き合ってた のに。
何でくっつかないのか不思議だったくらいなんだよ?

ふと、わたしもサイファーも黙りこんだから、遠くで風が木をゆらしてる音が聞こえてきた。
今日は風が強いなあ。
潮風にあおられて、わたしの髪、きっとぐしゃぐしゃだ。

「…黙っていた方がいい」

「ん?」

「もし言葉が、更なる沈黙のために語ろうとせぬくらいなら。言葉は、世界から人を隔てる」

あ、そのセリフ。わたし知ってる。

「あいつが、いなくなる前俺に行った言葉。なんかの芝居のセリフだっつってたやつ」

「……うん」

知ってるよ。一緒にスコールと観に行ったお芝居だから。

「その意味がさっき何となくわかったぜ」

「そうなの?どんな?」

「あれだろ?沈黙が気になるなら最初からしゃべるな」

両手を腰に当てて、自信たっぷりに言う必要以上に偉そうないつものアクションに、思わず笑ってしまう。
答えは大はずれなんだけど

「…サイファーらしいね」

スコールもそんなとこが好きだったんじゃない?
うん。納得。なんて思っていたら

『サイファー指揮官代理!いいかげんに戻ってきなさい!!』

いきなりキスティスの怒った声が開けっぱなしのハッチの中から聞こえてきた。
サイファーが大きく伸びをするその背中がバキバキ鳴る。
……やっぱり休んでないんじゃない。もう。
スコールとかサイファーにはデスクワーク向いてないよ、絶対。

「あ〜あ。呼び出しだぜ。サボってんのバレた」

だから最初からバレてるって。
そう言って笑っていると、サイファーはわたしの頭をわしづかんで、

「じゃあなリノア。悪ぃな。」

全然悪いなんて思ってない顔で笑って、ぐしゃぐしゃの髪を余計ぐしゃぐしゃに掻き回した。

「サイファー!」

ああもう。きっとこんがらがって大変なことになってる。
わたしが怒ったふりをして大きな声を出すと、それに負けないくらいの大きさでまた放送がガーデン中に響 いた。

「へいへい」

その放送を聞いてサイファーが走り出す。
ハッチが閉まる音と、サイファーが何かわめく声と、ドカドカ走る音。
それに混じって風が木をゆらす音。
こんがらがった髪の毛の間を風が通って、耳元で空気の切れる音がした。



スコールよかったね、やっぱり両想いだったじゃない。
色々悩んで、自分を追いつめる前に言っちゃえばよかったのに。もったいないことしたよ?
やっぱりそんなとこもスコールなんだから。もう、馬鹿なんだから。
ホントに、馬鹿。


風みたいに、一人で行ってしまったスコール。






「ねえ、サイファー」

もう見えなくなってしまった白いコートの背中に呼びかける。





ねえサイファー。









「…ラブソングだよ」




























───届くことはなかったけれど。


















































2001.09.21

8の小説2作目がこの作品。
またしてもスコールがいない(殺)
文内のとあるセリフは某劇団さんのお芝居のセリフからお借りしております。
知っている方、怒らないで…下さい…な。
結構リノア好きなのでした。
あ、ちゃんとスコールは生きてますよ。念のため。





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