スコールの悪癖は、脱走だ。
ただ単に「脱走」っつってもヤツの脱走は一味違う。
クソ忙しい仕事の最中でも、
せっかく取れた休みの最中でも、
最悪の場合任務中でもちょっと目を離した隙に
携帯だけ残して忽然と消えやがって、
何時間も雲隠れしやがる。
その上どこを探そうが誰に聞こうが
脱走したヤツは絶対見つからねぇ。
…むしろ逐電だな、アレは。
迷惑この上ねえ話だが
俺たちが強く文句を言えねえのは、
イライラして来るキスティスの気配を
野生のカンで察知するんだか何だか、
どうにも回らなくなる前にヤツが
何事もなかったみてぇに帰って来るからだ。
それを考えると、
ふと見掛けなくなるだけの無害な癖に思えて来る。
だが、俺はヤツの脱走癖に心底うんざりしてる。
何しろ任務帰りで疲れてようが
部屋で昼寝してようが
ヤツが消えた時に探しに出されるのは絶対に俺だわ、
イラついたキスティスに八つ当たりされるのも俺だわ、
必死で探してるとセルフィ達に笑われるわ……。
挙げ句に初めてヤるぞ！と
気合いを入れたその日の夜に脱走された日にゃ
トラウマにもなるってモンだ。
しかも何が気に入らないのか
最近脱走頻度が増えやがった。
ヤツが脱走する度にイライラして来ちまって、
つい煙草に手が伸びる。
最近目に見えて煙草の本数が増えたのは、
ヤツのせいだっつっても過言じゃねえ。
「おいスコール」
「何だ」
「てめえ…脱走すんのやめろ」
「何で」
「イライラすんだよいい加減」
「俺だってイライラしてる」
「俺のイライラの原因はてめえだ」
「…俺のイライラの原因はあんただ」
「………」
「………」
「…どこでそんな厄介な癖覚えて来やがったんだ…」
「あんたから、に決まってるだろ」
「……あぁ！？」
ちなみに俺の癖は、
15の時から隠れて煙草を喫ってたスコールを見掛けて
妙に悔しかった当時の俺が必死で喫いまくったから。
…だったりするんだが、
絶対に言えねえ。
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サイファーの悪癖は、煙草だ。
煙草ぐらい誰でも喫うだろう。
俺だって喫うが、あいつの喫煙は常軌を逸している。
つまらない仕事の最中でも、
休みに部屋でごろごろしている時でも、
最悪の場合任務中にでもちょっと目を離した隙に
地べたにしゃがみ込んで携帯灰皿を片手に、
何時までも喫っている。
その上その時敵に見つかって襲われようものなら
咥え煙草のままバトルに突入する。
…あれはすでにチェーンスモーカーに近い。
そんな風に一日中煙を吐いている人間に向かって、
最初はそれは文句が集中した。
仕事中に喫うな、紙の多いところで喫うな、
煙をこっちに流れないようにしろ…
何度注意しても一向に改善されない上に、
しつこく言うとキレ始める。
最早仕事部屋に集まる面々からは
諦められているようだ。
だが俺はあいつの喫煙家ぶりに心底うんざりしている。
何しろあれだけの喫煙量だ、身体に悪くない訳はない。
あいつの身体を心配して注意を促してもまったく聞く耳を持たないわ、仕事場に放置される吸い殻を片付けるのが何時の間にか俺の役割になっているわ、
髪も服も煙草臭くなるわ……。
キスが煙草臭いとか
そう言うことは段々気にならなくなって来る分、
やはり健康面のことばかりが気になって来てしまう。
しかも何がストレスになっているのか
最近前にも増して煙草の消費量が増えた。
サイファーが煙草を喫っているところを見たくなくて、
ついその場を後にしてしまう。
最近目に見えて俺が姿を眩ましてしまうのは、
あいつのせいだと言っても過言ではない。
「おいサイファー」
「あんだよ」
「あんた…いい加減煙草やめろ」
「何でだよ」
「…イライラするからだ」
「俺だってイライラしてるぜ」
「俺のイライラの原因はあんただ…」
「俺のイライラの原因はてめえだ」
「……」
「……」
「………どこでそんな身体に悪い癖覚えたんだか…」
「お前からに決まってんだろ」
「……は！？」
…ちなみに俺の癖は、
幼少期の蘇った記憶の中で、孤児院脱走常習犯だった
サイファーが俺に脱走のノウハウを教えたから。
…だったりするのだが、
絶対に言えない。
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