ガーデンの学生食堂は朝から人が多い。
授業に出る生徒、任務に出るSeeD、時折教官も混じり、大挙して朝食を摂りにやって来る。
ガーデン内のほぼ全ての人間が集中して集まる場所。

人混みが苦手な俺はいつもは時間をずらして訪れているが、
今日だけはそうはいかない。


人の合間を縫って、
目的の席を発見する。


がやがやとうるさい人の波。









この中の何人が、俺とサイファーが付き合っていたことを知っているだろうか。
















一年目の告白















サイファーとの出会いは、どうしてだかさっぱり覚えていない。
気がついたら側にいて、気がついたらいつも一緒で、
気がついたらそれが当たり前になっていた。

そして、何かきっかけがあったような、なかったような。
気がついたら俺たちは付き合っていた。


付き合っていると言っても多分一般的なそれとは違い、
顔を合わせればいがみ合い、お互いを罵倒し合って。
寄ると触るとバトルばかりして、それでもやることはやって。

他の人間からは「犬猿の仲」だと思われていたらしいが、
それでも一応俺たちは付き合っていた。





随分と長い間だらだらと惰性的に付き合いを続けて、
そして、あの戦争が起こった。

気がついたら俺はガーデンの指揮官に祭り上げられていて、
気がついたらサイファーは俺の敵になっていた。

それでも別に何か特別に思うところがあったわけでもなく。
今までと同じように剣をぶつけ合った。

それでも少しは、嫌だと思ったのだと思う。





あの戦争が終わって、
俺は指揮官を降りて一SeeDに戻り、
そしてサイファーが帰って来た。


「よう」

「ああ」


帰還の挨拶はそんなものだった。

サイファーは普通に授業を受けて普通に訓練をして普通に雷神たちとつるんで。
俺たちは顔を合わせては挨拶をし、簡単に言葉を交わして。
たまに一緒に食事を摂って、たまに一緒に訓練をして。

気がついたら俺たちの関係は自然消滅していた。


それでも別にどう思ったわけでもなく。
俺も普通のSeeDとして日々に埋没した。











そして、ガーデンに帰って来て一年目の昨日。

サイファーはSeeDの初任務から無事帰還した。


クライアントからの評価は最高。
特にサイファーの戦闘能力と統率能力には目を瞠るものがあったのだと
監察として同行していたキスティスが興奮気味に語るのをかつての仲間たちと聞いた。


「サイファー、すごいね〜!」

「あいつもやれば出来るんだね」

「やらなかっただけっつーのがムカつくよなー」


仲間たちがその場にはいないサイファーを称える言葉を
己のことのように誇らしく思う自分がいることに気付く。


その時、気が付いた。

自分がサイファーに、どんな感情を抱いていたのか。



そして、気づいたからには一言言ってやらなければ気が済まないと思ったのだ。
俺の正直な気持ちを、勝手にこの関係を終わらせたサイファーに。























「お、よう」


目的の席…サイファーの座るテーブルに歩み寄ると、
向こうから気づいて鳥の唐揚げが刺さったままのフォークをひらひらと振った。


「…お早う」


そのまま向かいの席に腰を下ろす。
そして、まず一言。


「初任務、お疲れ」

「おう!聞いたか俺の活躍をよ」

「報告は聞いた。よかったじゃないか。これで晴れて正SeeDだな」

「ふん。テメー待ってろよ、すぐにランク追い越してやるからな」

「やれるものならな」


そう言って笑ってやると、サイファーは悔しそうに唸って唐揚げにかぶりついた。
もぐもぐと租借するのを眺めながら、周りの喧騒を聞くともなしに聞く。

…多分、これから言おうとしていることをこんな場所で言うこと自体、
以前の俺からは考えられない。
きっと、サイファーも考えてもいないだろう。

言ったらどんなに驚くだろうか?
それを聞いたここにいる人間は、ついに俺がおかしくなったと思うだろうか?
考えると、少し面白い。



目の前に座る男が食べ物を嚥下するのを待って、
口を開いた。


「あのさ」

「あのよぉ」


見事に、俺とサイファーの声がハモる。
…懐かしいことに以前付き合っていた頃も、度々会話が被ることがあった。




「…何だ?」


以前と同じように先に話を振ると、サイファーは渋い顔をしてまた一つ唐揚げを口に放り込んだ。
先に言え、という無言の意志表示を汲んで俺はテーブルに両肘をついてサイファーの顔を覗き込む。
尻込みしてしまいそうなことは、先に言ってしまうに限った。





「サイファー、俺、あんたのこと、尊敬してる」





俺の発した一言に、サイファーは途轍もなく呆けた顔をした。
多分、付き合っていた頃にも見たことのない間抜けな顔。


「だから、ほんの一時でもあんたと付き合ってたことを俺は誇りに思ってる」


隣のテーブルの生徒が、信じられないものでも見るかのように俺を見ているのが解った。
予想していた反応だったが、俺たちの周りだけ、いやに静かになっている。


「あんたがSeeDになって、嬉しい。おめでとう。……それだけだ」


ひそひそ、と何かを囁く多数の声と、誰かが食器を取り落とす音が遠くの方で聞こえた。
静かな範囲が急速に拡大して行くのを感じながら、こんなところでガーデンの伝達能力を実感する。




「あんたは?」


言いたいことを言ってすっきりした俺が話を振ると、
まだ半分呆けた表情のサイファーは手探りでコップを探り当て、一口飲んだ。


「俺は───、まあ、何だ。クソッてめえの後だと言いづらいな」


そしてがしがしと頭を掻いて、ふて腐れたように頬杖をついて俺から視線を逸らす。


「ここに帰って来て一年経った。何でかSeeDにもなれたし、昨日狸親父からてめえとコンビでやらねえかって言われた。
この一年で、俺のしでかしたことが帳消しになったなんて思っちゃいねえけど、俺は──」


そこで、サイファーは一度言葉を切って、俺を見た。
その真剣な表情を見て、自然と背筋が改まる。

そんな真面目な視線は、あの日対峙した時以来だ。

学食は今やしんと静まりかえっていたが、そんなことはさっぱり気にならなかった。





「俺は、お前と、やり直したいと思ってる」






今度は、俺が呆ける番だった。


「…え?」

「だから、もう一度お前と付き合いたいって言ってんだよ」

「だって、何で」

「さっき言っただろが。俺はあんなことして、お前にはふさわしくなかった。今でもそうだと思ってるが、一年まともにやって来た。
…一年経ってもまだお前を諦めたくねえと思ったから。だからだ」

「俺は、てっきり自然消滅したものだと…」

「まあ、それに近かったけどよ」

「何なんだ、あんた…」


そこまで会話してテーブルに埋もれて、食堂中の人間が興奮気味に何かを言い交わす声を聞きながら、
今になって俺は猛烈に後悔していた。

ここでそんな話になって来るならさっき俺が意を決して言ったセリフは何だったのか。
サイファーに先に話を振っていれば、こんな衆人環視の真っ只中であんな恥ずかしい告白をしなくてすんだのに。

まったく恥ずかしい。今すぐここから立ち去りたい。
立ち去って自分の部屋で不貞寝したい…。

突っ伏したまま顔も上げられない俺に、


「スコール」


苦笑いの声でそう言ってサイファーが頭をぐりぐりと撫でた。
観念して、溜息を吐く。



…恥ずかしい告白だったが、本心だ。
だから、多少は開き直れる部分もある。

今や俺たちのテーブルの周りは黒山の人だかりだったが、
席に座る前よりはるかに騒々しくなっているそのうるささももうあまり気にならない。



きっと血色が良くなっているだろう顔を上げて、
何か言葉を待っている嬉し気なサイファーと視線を合わせる。
ついでに頭を構っていた手を強く掴んだ。
















今更俺たちの間に
好きだとか、
愛しているとか、
そんな言葉は必要ない。






だから、多分この一言で充分通じるだろう。



































「それじゃあ、これからも末永く、よろしく」












































2002.10.19


いやあ…とても長くかかりました…。
後半部だけ書いてありまして、前半部を抜いてそのまま放置してあったのです。

気が付いたら書き始めてから7ヶ月もかかっておりますね…。ううっ。

今回はあっさりと書く、をテーマに書いてみました。
いつもなら掘り下げる所をあえてあまり掘り下げずに…。
無駄に長くなるよりはいいと思いまして…けれどいざ出来上がってみると
何だか物足りない気持ちです。
さ、さじ加減が難しい…!

今回はスコールを、私内スコールになるべく沿わせてみました。
やけに開き直ってる感がうちのスコールなのです。
それと、サイスコの馴れ初めも私内設定ですね。気が付いたら…という。

これも、サイト開設前から形にしたかった述べるでした…。
この文内のスコールの告白は高校時代の友人に捧げます。
別に付き合ってはいませんでしたが。尊敬できる人物なので。
ていうか妻です(大 暴 露 ☆)





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